Disc Review

Typical of Me / Laufey (self-released)

ティピカル・オヴ・ミー/レイヴェイ

ぼくが編集長をつとめているオンライン・マガジン『ERIS』でもブロードウェイ絡みの興味深い連載を続けてくれている友人、水口“ミソッパ”正裕くんにその存在を教えてもらって初めて知ったのだけれど。きっと情報通の方ならばすでにご存じかな。ボストンを拠点に活動するアイスランド+中国系のシンガー・ソングライター/チェロ奏者/ギタリスト/ピアニスト、レイヴェイ。

アイスランド系の名前らしく、正しくはどうカタカナ表記すればいいのやら。北欧神話に出てくる表記だと“ラウフェイ”? でも、アイスランドのヴァイオリン奏者のLaufey Jensdóttirは“ロイフェイ・イェンスドッティル”とか表記されるみたいだから、“ロイフェイ”か? ただ、Twitterのプロフィール欄には“レイヴェイ”って発音すると書いてあって。かと思うと、YouTubeにアップされた自身のモーニング・ルーティーン紹介動画みたいなやつでは自分の名前を“ロイヴェイ”って発音しているように聞こえたり。

ただ、注目の存在ってこともあり、最近、英BBCサウンズで“Happy Harmonies with Laufey”って番組がスタート。そこでは確かに“レイヴェイ”って自己紹介しているようなので、とりあえず今回は“レイヴェイ”にしておきます。てことで、フル・ネームはレイヴェイ・リン。現在21歳だ。若い。素晴らしい。

去年の春、ちょっとジャジーで、ほのかにソウルフルで、アンニュイな自作曲「ストリート・バイ・ストリート」がSpotifyなどで大注目されたそうで。アイスランドではナンバーワンに輝いたらしい。ぼくはついぼんやり見過ごしていて、まったくその存在に気づいていなかったのだけれど。水口に教えてもらって聞いてみたら、まじ、すっごく素敵で。遅ればせながら全力でハマりました。

アイスランドのレイキャヴィク育ち。YouTubeでいろいろ過去動画を漁ったところ、14歳のときアイスランドのタレント・スカウト番組みたいなのに出場してピアノの弾き語りで審査員たちの度肝を抜いている映像にも出くわした。天才少女だったのね。15歳でアイスランド・シンフォニー・オーケストラとも共演したこともあるのだとか。

幼いころからクラシックや古いジャズに親しみながら育って。やがて、そうした伝統的な音楽性と新世代ならではの感覚をうまく融合させた独自の世界を育みたいと願うようになり、米国ボストンのバークリー音楽大学へ。去年の初頭、新型コロナ禍のせいでキャンパスがロックダウンしてしまう直前、バークリーの仲間とともにデビュー・シングルとなった前述「ストリート・バイ・ストリート」をレコーディングした。

で、そのシングルを自主リリースしたものの、世はあえなくロックダウンに突入。ライヴ活動はできなくなったけれど、彼女はめげずにSNSを使って「ストリート・バイ・ストリート」の存在をアピールし、いろいろなスタンダード・ナンバーのカヴァー映像とかも次々アップし、徐々に口コミで魅力を広めていった、と。まあ、ぼんやりしていたぼくのところまでは残念ながら届かなかったのだけれど(笑)。ちゃんとアンテナ張ってる人たちのところには届いたようで。その流れで今回紹介するファーストEP『ティピカル・オヴ・ミー』がめでたく完成した。

全7曲入りで、以前、本ブログでも紹介したクリッシー・ハインドのソロ・アルバムでも取り上げられていたスタンダード・チューン「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」(レイヴェイはチェロをピチカートで、まるでギターみたいに奏でながらカヴァーしてる! かっこいい)以外はすべてレイヴェイのオリジナル。去年から少しずつリリースしてきたシングル曲もすべて含まれていて。出遅れ組のぼくも一気に追いつけました(笑)。

ベッドルーム・ポップに近い、とても簡素な環境でレコーディングされているようで。アレンジも実にシンプル。音数少なめ。余分な要素、いっさいなし。そこをもともと狙っているのか、仕方なくそうなっちゃってるのかはわからないけれど。これ、結果オーライというか。それがむしろ素敵で。自ら爪弾くギター、あるいは弾くピアノ、奏でるチェロ、多重録音したセンスのいいコーラス、そして淡くささやくようなヴォーカルだけで構築された音像は、なんだか不思議な吸引力を放っている。

歌詞に関してはまだふんわりしている感触だけれど、それでもSNS世代ならではの距離感のようなものがさりげなく反映された世界観が面白いような…。まあ、おじさんとしてはあまりそこに踏み込まないほうがいいか。フィジカルCDとかLPとかは出ていなくて、今のところストリーミング/ダウンロードのみ。でも、Tシャツとかトートとか、そういうグッズだけはしっかり売っていたりして(笑)。その辺もまた、なんとも今どき。

アルバム、一刻も早く作ってほしいな。おじさんとしては絶対ヴァイナルで聞きたい。まじ、楽しみ!

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