コーラル・アイランド/ザ・コーラル
ザ・コーラルの新作、出ました。
去年、メンバーのイアン・スケリーとポール・モロイがそれぞれソロ・アルバムを発表していて。本ブログでもそれらを紹介したけれど。もちろん、バンドとしても活発に動いていて。パンデミックのさなか、ライヴ・アルバム『ライヴ・アット・スケルトン・コースト』、および宅録アコースティック・アルバム『ロックダウン・セッションズ』をリリースしたり…。
とはいえ、フルのスタジオ録音アルバムとしては2018年夏の『ムーヴ・スルー・ザ・ドーン』以来、2年弱ぶり。さらに、これが記念すべき通算10作目ということもあってか、今回はいつも以上に気合いたっぷり。ロック・オペラ期のキンクスを想起させるコンセプト・アルバムという意欲的なフォーマットで新作を届けてくれた。
リード・ヴォーカルのジェイムズ・スケリーの曲を中心に、イアン・スケリー(ドラム)、ポール・ダフィ(ベース)、ニック・パワー(キーボード)、ポール・モロイ(ギター)ら、他のメンバーも絡みつつの1作だ。リヴァプールのパー・ストリート・スタジオでレコーディング。コンセプト・アルバムらしい演出として、曲の合間合間にニック・パワーが書き下ろしたナレーションが挿入されていて。そのナレーションはジェイムズとイアンの85歳になるおじいちゃんがマージーサイドのご自宅で録音したものだとか。
英語がぼんやりとしかわからないので(笑)、まだ物語をちゃんと追えてはいないのだけれど。メンバーがかつて過ごした英国の西海岸のリゾートでのファンタジックな記憶に彩られた作品ということで。前半が架空の島の海沿いの街を舞台に、華やかな夏の様子を描いた“ウェルカム・トゥ・コーラル・アイランド”。それに対し、後半は寒い冬が訪れたその島に暮らす人々の物語という感じの“ザ・ゴースト・オヴ・コーラル・アイランド”。
ナレーションも含めて全24曲ながら、ナレーションは短いから、全長50分ちょい。前後半ともディスク1枚に収まっている。A面、B面って感じかな。両パートをちゃんと2枚組に分けた限定アナログLPもあるみたいで。となると、やっぱアナログのほうも欲しくなってくる。
ザ・コーラルはこれまで、往年のフォーク・ロック、カントリー・ロック、ガレージ・ロック、サイケデリック・ロック、サンシャイン・ポップなどから、アダルト・コンテンポラリー、ポスト・パンクまで、多彩なサウンド・フォーマットを独自の柔軟な感性で躍動的に融合しつつアルバム作りを続けてきたわけだけれど。節目の今作、音楽的にはその集大成といった感触も。
ブライアン・ウィルソンっぽいバリトン・ギターのフレーズがバッファロー・スプリングフィールドっぽいコーラスと融合する「ミスト・オン・ザ・リヴァー」とか、キンクスとダイア・ストレイツが交錯する感じの「ヴェイカンシー」とか、ソフト・サイケっぽい「ザ・ゲイム・シー・プレイズ」とか、前半の“ウェルカム・トゥ・コーラル・アイランド”にも気になる曲は多いけれど。
個人的には後半の“ザ・ゴースト・オヴ・コーラル・アイランド”のほうが沁みた。ジョン・レイトンの「霧の中のジョニー」的な、というか、まあ、大滝さんの“シベリア鉄道”的な? マイナー・キーで推進するタイプの泣きの英国ポップ風味が漂う「フィアレス」とか、妙に印象的だし。イアンが持ち前のオールディーズ・ポップ・テイストを全開にした「テイク・ミー・バック・トゥ・ザ・サマータイム」とか、もうラヴィン・スプーンフルの未発表曲みたいで最高。ポール・モロイ作のグッド・オールド・タイミーな「ザ・キャリコ・ガール」も素敵だ。
かつて賑わったリゾート地の今…みたいな解釈を重ね合わせると、かつて盛り上がっていたロック/ポップ音楽の現在、みたいな捉え方もできなくはないのかな。語感的に“コニー・アイランド”のイメージとかも脳裏をよぎったりするし。いや、でも、ロックは今も全然OKですよ。大丈夫。そう思えた。ザ・コーラルみたいな頼もしいやつらがいるんだから。