Disc Review

Reprise Rarities: Very Good Years…Indeed! Volume 1 + Volume 2 / Frank Sinatra (Frank Sinatra Enterprises)

リプリーズ・レアリティーズ Vol.1 + Vol.2/フランク・シナトラ

去年の暮れから、フランク・シナトラのリプリーズ時代のレア・トラックスを集めたデジタル・コンピレーションが編まれ始めて。フィジカル発売はないのだけれど、なんだか、ちょっとうれしい。去年の12月に出た第1集に続いて、ちょうど第2集も出たところなので、このタイミングでまとめて紹介しておきます。

第1集のほうは全13曲。1961年から1974年まで、主に1960年代前半のレアものを中心に編まれている。どのヴァージョンも初デジタル化とか謳われてはいるけれど、細かく見ていくと、たとえば1965年10月に再録音された「アイル・ネヴァー・スマイル・アゲイン」と「カム・フライ・ウィズ・ミー」はどちらもその年に出た2枚組『ア・マン・アンド・ヒズ・ミュージック』に収められていたヴァージョンで。エディットが違う個所がある気もするけれど、とりあえずCD化されたことはあったはず。さらに、1963年2月録音の「ユー・ブロート・ア・ニュー・カインド・オヴ・ラヴ・トゥ・ミー」も1965年に出た『シナトラ65』の収録曲で。こちらもCD化されていた。

それどころか、実はシナトラのリプリーズ在籍期の音源の場合、1995年に『ザ・コンプリート・リプリーズ・スタジオ・レコーディングズ』って、実に豪勢なCD20枚組ボックスセットが出ていて。未発表ものもあらかたここに収められちゃっている。なので、今回のレア音源コンピ、第1集も第2集も、あの箱をお持ちの方であれば特に必要なし。というわけで、初デジタル化はウソです。初デジタル・ストリーミング化、というのが正解か。

もちろん、それでもうれしい。なにせ、あの豪勢な20枚組も今や廃盤状態みたいだし。もともとバカ高価だったし。細かい事情は抜きにして、ストリーミングでこのあたりのレア・ヴァージョンを気軽に聞くことができるようになった環境を歓迎したいものです。

第2集も面白い。内容的にはこっちのほうがぼくは好きかも。こちらはシングル音源がふんだんだ。1961年の「ティナ」、1968年の「スター!」、1969年の「ブルー・レイス」、1983年の「イッツ・サンデイ」がそれぞれシングルB面曲。サイ・コールマン&マイケル・スチュワート作のミュージカル主題歌「アイ・ラヴ・マイ・ワイフ」は1976年のシングルA面曲。

フォー・シーズンズのボブ・ゴーディオ作の「レディ・デイ」は、ベスト盤とかに入っているドン・コスタ編曲の再演ヴァージョンではなく、ゴーディオが全曲の作曲を担当し、やはりフォー・シーズンズ人脈のチャーリー・カレロが全編曲を手がけた1970年のアルバム『ウォータータウン』のセッションで録音されたファースト・レコーディング・ヴァージョンのほう。『ウォータータウン』がCD化された際もボーナス追加されていた音源だ。

あと、ぼくが特に興味深く楽しんでいるのが、おなじみの「ナンシー」をはじめ、「エミリー」「リンダ」「スウィート・ロレイン」「バーバラ」という、女性の名前がタイトルについた曲たち。これ、1977年に盟友ネルソン・リドルの編曲によって途中まで制作されていた未発表アルバム『ヒアズ・トゥ・ザ・レディーズ』に収録予定だったものだ。「ナンシー」のジャズ・コンボ・ヴァージョンみたいなやつとか、なかなかに興味深い。

だいぶ後年、1986年に録音されたジェリー・リーバー&マイク・ストーラー作の「ザ・ガールズ・アイヴ・ネヴァー・キスト」も含め、第1集同様、『ザ・コンプリート・リプリーズ・スタジオ・レコーディングズ』でお披露目ずみの音源ばかりだけれど。繰り返しになりますが、バカ高い20枚組の箱買わなくても気楽にストリーミングで楽しめるようになった状況はうれしい。

ぼくがフランク・シナトラの歌声に初めて接したのは1960年代半ば過ぎ。中学生だったころだ。「夜のストレンジャー(Strangers in the Night)」とか、娘のナンシーとデュエットした「恋のひとこと(Somethin' Stupid)」とか、その辺をラジオで楽しんだ時期だから、当然リプリーズ・レコード在籍期で。

だから、最初のうちはポップさも増したリプリーズ時代の音ばかり聞いていたのだけれど。やがて大学生時代、東京・青山にあったレコード屋さん、パイドパイパーハウスで、お店のアライさんから「シナトラはキャピトル時代のブルー・バラードがいいんだよ」と教わって。リプリーズ以前、1950年代に在籍していたキャピトル時代のシナトラも少しずつ聞くようになって。確かにすごくよくて、ずっぼりハマって。

で、そうこうするうちに、今度はその前、1940年代に米コロムビア・レコードに在籍していたころの若きシナトラの歌声にじわじわやられるようになって。一時期はコロムビア時代とか、その前、ハリー・ジェイムス楽団やトミー・ドーシー楽団の専属歌手として活躍していた1930年代〜40年代初頭の青い歌声ばかり聞いていたのだけれど。

さらに聞き込んでいるうちに、またキャピトル時代の持ち味も、リプリーズ時代の円熟味も、すべてがよくなってきて。今では全キャリアを通じたシナトラの歌声、まるごとがかけがえのない宝物になった。そんな宝の山の片隅にひっそり隠れていたちょっとレアな逸品たち。「マイ・ウェイ」くらいしか知らないなぁ…なんて方も含めて、試しに接してみるのも悪くないか、と。

第3集も、お待ちしてます!

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