Disc Review

Tasjan! Tasjan! Tasjan! / Aaron Lee Tasjan (New West Records)

タスジャン! タスジャン! タスジャン!/アーロン・リー・タスジャン

アーロン・リー・タスジャン。ぼくがこの人の音に初めて意識的に接したのは5年くらい前。セカンド・フル・アルバム『シルヴァー・ティアーズ』を聞いたときだ。で、なんとなく毒気のないハリー・ニルソンみたいな人だな、と、その出会いをうれしく思った。

けっして“これ見よがし”にではない形で往年のポップ・イディオムのようなものを真摯に取り入れたりする、わりかしお行儀のいい姿勢が、良くも悪くもこの人の特徴かなと受け止めつつ、以降もアルバムが出るたび楽しませてもらってきた。以前の活動もちょっとずつたどり直しながら、意外と長いキャリアを持っていることに驚いたり…。

で、そんなタスジャンさん。アルバムを重ねてこれが4作目? 5作目? EPとかのリリースも多いので、数がよくわからないのだけれど。今回もこの人ならではのキュートでドリーミーなポップ・ワールドは全開。曲によって、浮遊感に満ちたとらえどころのなさがたまらないエミット・ローズのようだったり、アク抜きされたトラヴェリン・ウィルベリーズのようだったり、押しが弱めのルー・リードやデヴィッド・ボウイのようだったり、1960年代後半のサンシャイン・ポップ的な表層の向こう側でシニカルな笑みを浮かべるカセネッツ&カッツのようだったり、ロックの終焉を淡く体現する退廃的なグラム・ロッカーのようだったり…。

まあ、いつものように、知らない人まで巻き込んでがつんとアピールできそうな、“これぞ!”という迫力あるキラー・チューンのようなものは、正直、ないっちゃない気もするけれど。でも、どの曲も好感度たっぷり。聞き込むごとにしみてくるいい曲だらけ。

歌詞の面では一歩、新次元に深く踏み出した感触もあり。ジェフ・リンがプロデュースしたときのトム・ペティっぽい「アップ・オール・ナイト」って曲とか、ポール・マッカートニーというかウイングスというか、そのあたりのちょっととぼけたアコースティック・ギターものみたいな「フェミニン・ウォーク」とか、1970年代のビーチ・ボーイズっぽいニュアンスと1960年代半ばのメロウなローリング・ストーンズっぽい感触が交錯する「ダダ・ボーイズ」とか、そのあたりの曲では、自身がバイセクシュアルであることを歌詞でさりげなく、しかし明示的に告白したりしていて。今どきのシンガー・ソングライターならではの主張/存在感もナチュラルに発揮したりも。

現在34歳。ソロ活動前夜、バークリー大学の卒業生仲間と結成したセミ・プレシャス・ウェポンズでトニー・ヴィスコンティのプロデュース・ワークを体験していたり、その時期、若き日のレディ・ガガをコンサートのオープニング・アクトに起用して交流を持ったり、脱退後ニューヨーク・ドールズに一瞬ギタリストとして参加してみたり、ジャック・ホワイトにプロデュースの下、BPファロンとのデュオ、あるいはリリー・ハイアットとのデュオでサード・アイ・レコードでレコーディングしたり、ショーン・レノンとイリナ・ラザレアヌのユニット“オペレーション・ジュリエット”に曲提供してみたり…。

そうした多彩な経験が少しずつ折り重なり、いい形で花開きつつある感じ? このアルバムあたりでぐいっと来ますかね。来てほしいっすね。

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