Disc Review

Introducing… / Aaron Frazer (Dead Oceans/‎Easy Eye Sound)

イントロデューシング…/アーロン・フレイザー

こことか、こことか、こことかで、何かと機会があるたび取り上げてきたドゥラン・ジョーンズ&ジ・インディケイションズ。ごきげんなレトロ・ソウル・バンドですが。リーダーのドゥラン・ジョーンズと並ぶくらい、バンド内で重要な個性を発揮しているのが、ドラマーでありソングライターでもあるアーロン・フレイザーで。彼のソウルフルなファルセット・ヴォーカルがバンドにもたらしている魅力は、まじ、限りないものがある。

で、そんなフレイザーさんが、ソロ・アルバムをリリースしてくれた。しかも、ブラック・キーズのダン・アワーバックをプロデューサーに迎え、アワーバックのイージー・アイ・サウンドと、デュラン・ジョーンズ&ジ・インディケイションズのデッド・オーシャンと、両レコード・レーベルからの共同リリース。もちろんレコーディングは米南部ナッシュヴィルにあるアワーバックのイージー・アイ・サウンド・スタジオで。アーロン・フレイザー自身がドラムを叩き、ダン・アワーバックがギターを弾き、その他は当地の新旧腕ききミュージシャンが的確にバックアップしている。去年の暮れ近くから、ちょっとずつビデオクリップとかがYouTubeで小出しにされていて。楽しみにしていたのだけれど。ついに出ました。うれしい。

今回も目指すは往年のスウィート・ソウル・ミュージック的快感の復権というか、今の音楽がふと忘れてしまいがちな美学の再確認というか、そういう感じ。デルフォニックスやドラマティックスみたいな往年のソウル・ヴォーカル・グループっぽい曲もあれば、ギル・スコット・ヘロンみたいなやつもある。アイザック・ヘイズっぽいものもあれば、イーストLAのチカーノ・ソウルみたいな曲もある。カーティス・メイフィールドふうのスロウ・グルーヴもあれば、ラスカルズっぽいブルー・アイド・ソウル調もある。マイナーキーのキャッチーな1960年代バブルガム・ナゲッツ系もあれば、妖しくブルージーなものもある。楽しい楽しい。

そういった、いかにもレトロ・ソウルっぽいアプローチの楽曲群が、とことんアナログな感触にこだわった音像のもと、しかしきっちり“今”っぽい空気感をたたえつつ届けられているわけだから。たまらない。このあたりの方向性には強いこだわりが感じられる。

アルバムのリリースに先駆けてのインタビューで、フレイザーは、「別に昔のものをそのまま再構築しようとしているわけじゃない。もちろん、偉大な音楽的先達が示してくれた方向性に触発されたものもある。でも、それと同じくらい最近のヒップホップやポップ・ミュージックからもインスピレーションをもらっている。アーティストとして、音楽家として、ぼくが、あるいはシーン全体がどうあるべきか…みたいな期待も感じはするけれど、その期待を破ることもエキサイティングだよね」みたいなことを語っていて。そうした意図が反映されているのかも。

この人のファルセットって、基本、いわゆる1970年代スウィート・ソウル系の影響下にあるわけだけれど。加えて、実はフランキー・ヴァリっぽいニュアンスもあるんだな、と。今回、なんとなく感じた。オープニング・ナンバーの「ユー・ドント・ウォナ・ビー・マイ・ベイビー」の共作者に、フォー・シーズンズの「カモン・マリアンヌ」の作者のひとりでもあるソングライター、L・ラッセル・ブラウンが迎えられていたことで思いついたのだけれど。

全曲、基本的にはアーロン・フレイザー&ダン・アワーバック作。そこに曲によって、今、名前を挙げたL・ラッセル・ブラウンとか、ロジャー・クックとか、キーボード奏者としても参加している伝説の“メンフィス・ボーイズ”のひとり、ボビー・ウッドとか、超ベテランのソングライター陣が共作者として手を貸しているのが、また泣ける。このあたりはアワーバックが過去プロデュースしてきたシーロ・グリーンヨラのアルバムと同趣向。

いやいや、さすがの人選、さすがのダン・アワーバック、です。

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