Disc Review

Greenfields: The Gibb Brothers’ Songbook vol. 1 / Barry Gibb (Capitol Records)

グリーンフィールズ:ザ・ギブ・ブラザーズ・ソングブック Vol. 1/バリー・ギブ

ぼくがお小遣いをためて手に入れた最初のビージーズのシングル盤は、1968年の「ジョーク(I Started a Joke)」で。好きだったなぁ。イントロのベースから、全部。中学生のころ、ずっと聞いてた。

ぼくがジョークのつもりでふと口にしたことで周囲が泣き出した、ぼくが泣き始めたら世の中が笑い出した、自分が軽い気持ちで口にしたことで自分がこんな手ひどい目に遭うなんて、それはきっとぼくが死んで世界がいきいき輝き出すまで続くんだ…みたいな。なんとも皮肉な歌詞と、この上なく美しいメロディと、リード・ヴォーカルをつとめるロビン・ギブの“んみゃ〜”とした特徴的な歌声とが相まって、極上のポップ・ワールドを紡ぎ上げていた。今でも大好きな曲だ。

その曲をきっかけにして、ぼくはビージーズに思いきりハマった。それまでにも、ビージーズ版フォーク・ロックとも言うべき「ニューヨーク炭鉱の悲劇(New York Mining Disaster 1941)」とか、スウィートなソウル感覚に満ちた「ラヴ・サムバディ(To Love Somebody)」とか、ザ・タイガースも加橋かつみのヴォーカルでカヴァーしていた「ホリデイ」とか、ラジオでちょいちょい耳にはしていたけれど、「ジョーク」のシングルを初買いしたのをきっかけにようやく新譜・旧譜取り混ぜてビージーズのレコードを買い集めるようになった。懐かしい。

その後、メンバー間の緊張関係が高まって2人編成になってしまった時期とか、例の『サタデイ・ナイト・フィーバー』絡みのディスコもので大当たりをとった時期とか、「ユー・ウィン・アゲイン」で見事チャートによみがえって以降の時期とか、その辺の作品群も含め、ぼくはビージーズに関してほぼ全肯定モードなのだけれど。そんな彼らの偉大な業績を、ベスト盤とかボックスセットとか、そういうアンソロジー的な方向性とはまた違った視点から再評価する1枚が出た。

今さら説明は不要だと思うけれど、ビージーズというのはバリー、ロビン、モーリスのギブ三兄弟によるポップ・グループで。そんなギブ三兄弟中、現在たったひとり存命している長兄バリー・ギブが長年夢見てきたという企画アルバム『グリーンフィールズ:ザ・ギブ・ブラザーズ・ソングブック Vol. 1』。彼が大好きで日頃愛聴しているというポップ・カントリー系アーティストたちを1曲ごとデュエット・パートナーに迎えつつ、ナッシュヴィルの名門、RCAスタジオAで、兄弟名義で書いた往年の自作曲の中から12曲をセレクトしてリメイクした1枚だ。

バリーとともに共同でエグゼクティヴ・プロデュースを手がけているのは業界の重鎮、ジェイ・ランダース。プロデュースはバリーの息子さんのスティーヴン・ギブと、今をときめくデイヴ・コブ。ゲスト・シンガーとして迎えられたのは、ドリー・パートン、オリビア・ニュートン・ジョン、シェリル・クロウ、アリソン・クラウス、キース・アーバン、ジェイソン・イズベル、リトル・ビッグ・タウン、ミランダ・ランバート、ブランディ・カーライル、ギリアン・ウェルチ&デイヴ・ローリングスなど。トミー・エマニュエルとかも参加していて、オーストラリア系の顔ぶれがけっこう含まれているのがビージーズらしいかも。

かつてビーチ・ボーイズがナッシュヴィルのコンテンポラリー・カントリー・シーンのスターたちを1曲ごとにリード・ヴォーカルに迎え、自分たちがバック・コーラスを提供する形で往年のヒット・ナンバーを再構築した『スターズ・アンド・ストライプス』ってアルバムをリリースしたことがあったけれど。あれのビージーズ版という感じか。そういえば、三兄弟のうち次男、三男が先に亡くなって、長兄だけが今なお音楽活動を続けているってのもビーチ・ボーイズと共通しているような…。

楽しいです。素直に。大好きな「ジョーク」が入っておらず、その辺、個人的には大いに残念ではあるけれど(笑)。そんなこと問題ないくらい、いい曲揃い。ビージーズというか、バリー・ギブにはいろいろな側面があって。時にフォークっぽかったり、時にディスコっぽかったり、時にソウルっぽかったり、時にジャジーだったり、多彩なのだけれど。そんな多彩さのうち、たとえばケニー・ロジャースと組んだときとかに発揮されてきたポップ・カントリー・テイストのようなものがぐっと強調されてここに記録されている感じ。

ゲストの面々がつい発揮してしまうカントリー流コブシのえぐさと、年齢を重ねるとともに増大してきたバリー特有のヴィブラートのえぐさ。“ダブルえぐさ”の共存ってのもなかなかに面白い。

選曲的には、キース・アーバンとの「獄中の手紙 (I’ve Gotta Get A Message To You)」とか、ブランディ・カーライルとの「ラン・トゥ・ミー」とか、アリソン・クラウスとの「失われた愛の世界(Too Much Heaven)」とか、リトル・ビッグ・タウンとの「ロンリー・デイズ」や「愛はきらめきの中に(How Deep Is Your Love)」とか、ドリー・パートンとの「ワーズ」とか、シェリル・クロウとの「傷心の日々(How Can You Mend A Broken Heart)」とか、まあ、超有名曲が中心ではあるのだけれど。

でも、渋いところもあります。これがいい。オリヴィア・ニュートン・ジョンとデュエットしている「レスト・ユア・ラヴ・オン・ミー」はシングル「失われた愛の世界(Too Much Heaven)」のB面に収められていたポップ・カントリー・バラード。ジェイソン・イズベルと共演した「ワーズ・オヴ・ア・フール」は1980年代の未発表デモで聞くことができた曲。ギリアン・ウェルチ&デイヴ・ローリングスとの「バタフライ」はまだオーストラリアで活躍していた初期のレパートリーのアウトテイクとして世に出た曲。

国内盤(Amazon / Tower)にはさらに、ちょいマニアックな2曲がボーナス収録されているみたい。うー、気になるなぁ…。

まあ、確かにとても豪華で、素敵なアルバムで。あくまでもそれを前提に言わせてもらうと。そうは言っても結局はバリーとロビンとモーリスと、兄弟によるビージーズならではの鉄壁のハーモニーにかなうものはないわけで。そんな事実を逆説的に再確認するための1枚ということもできなくはないかも。複雑な気分ではあるけれど、その複雑さも含めて思いきり楽しめるアルバムではありました。

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