Disc Review

I Have Notes / Graham Gouldman (LoJinx)

アイ・ハヴ・ノーツ/グレアム・グールドマン

元10CCとか、元WAXとか、もう説明するまでもないのかな。ブリティッシュ・ポップ・シーンを代表するソングライターとして1960年代から活躍を続けるグレアム・グールドマン。

2014年にソングライターズ・ホール・オヴ・フェイムで殿堂入りを果たしたあたりから、この人の周辺がまた少しずつ賑やかになってきたみたいで。2017年に英エース・レコードで作品集が編纂されたり、EP『プレイ・ナイスリー・アンド・シェア』を出したり、2018年にリンゴ・スター&ヒズ・オールスター・バンドのツアーに加わったり、2020年にそのリンゴも客演したアルバム『モデスティ・フォービッズ』をリリースしたり、ヤードバーズ、ホリーズ、ハーマンズ・ハーミッツ、ウェイン・フォンタナらにかつて提供した往年のヒット曲を自演したEPを2022年に制作したり…。

2022年には他にも、ブライアン・メイとのコラボレーションで、NASAのジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した宇宙初期の銀河の画像ってのが公開されたことにインスパイアされたスペイシーなバラード「フローティング・イン・ヘヴン」をシングルとしてリリース。さすがは天体物理学者でもあるブライアン・メイ…というか。

まあ、もともとクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」は10CCの「アイム・ノット・イン・ラヴ」や「パリの一夜(Une Nuit A Paris)」を意識しているのでは? みたいなことは古くからファンの間で議論されてきたわけで。それへの回答とも言えそうな1曲ではあったのだけれど。実際、作詞作曲したのはグレアム・グールドマンで。そんな話題の1曲を冒頭にフィーチャーする形でグールドマンの新作アルバムがリリースされた、と。そういう流れです。

このシングルをレコーディングしているとき、アルバム・ジャケットにも描かれているようにインスピレーションが突如降ってきたらしく、一気にアルバム全体のイメージが浮かんで。それから2年ごし。グリーム・プリースをプロデューサーに迎え、プリースのスタジオでレコーディングを続けて完成に至ったのが本作『アイ・ハヴ・ノーツ』なのだとか。

「フローティング・イン・ヘヴン」にはブライアン・メイ。彼を筆頭に、ビートルズというかポール・マッカートニーにインスパイアされたらしき「クドゥント・ラヴ・ユー・モア」ではリンゴ・スターがバシャッバシャッとお得意のドラム・フィルを披露していたり、エヴァリー・ブラザーズっぽい「セイ・ユー・ラヴ・ミー・トゥナイト」でアルバート・リーが相変わらず強力なカントリー・ロック・リックを聞かせてくれていたり、ジェントルでノーブルな「ホエン・ユー・ファインド・ラヴ」にシャドウズのハンク・マーヴィンが素晴らしいギター・プレイを提供していたり、前作でも聞くことができたタイプのグッド・オールド・タイミーな4ビート曲「ア・クリスマス・アフェア」でベス・ニールセン・チャップマンがデュエットしていたり…。

チャップマンとはカントリー系ソングライターのゴードン・ケネディを加えた3人共同名義でリード・シングル「ウィーアー・アライヴ」も書き下ろしていたり。お得意の、どこか憂いをたたえたキャッチーなブリティッシュ・ポップ・チューンばかりでなく、ジャズやカントリーの影響も幅広く感じさせる佳曲揃いの1枚に仕上がっている。新しいか?と問われれば、全然新しくないです。全曲もれなく、むちゃくちゃいいのかと言われれば、そういうわけでもないような…(笑)。でも、だからどうした、的な? こういう手触りのアルバムを新譜として味わうことができる幸せをぼくは噛みしめます。

この人、1946年生まれだから、現在78歳。でも、声とか若いんだよなぁ。現在72歳の松尾清憲さんが6月にリリースした新作『Young and Innocent』を聞いたときも思ったことだけれど、本当に優れたポップ・マインドを持った人って、歌声もソングライティング感覚も枯れないのかも。本作『アイ・ハヴ・ノーツ』にもエヴァーグリーンなポップ・マジックがいっぱい。泣けてくる。

1982年に10CCでデモ録音したことがあるという未発表曲「アイム・レイジー」のニュー・レコーディングも興味深い。アルバムのラストにはボーナス的に、かつてヤードバーズに書いた「ハートせつなく(Heart Full of Soul)」の自演ライヴ・ヴァージョンが入っていて。ここにもブライアン・メイが客演。ロン“バンブルフット”タール(ギター)、デレク・シェリニアン(キーボード)、リック・フィエラブラッチ(ベース)、サイモン・フィリップス(ドラム)という顔ぶれを従えてぐいぐいやってます。

CDも出ているけど、主力メディアはヴァイナルLPみたい。現状、オンラインCDショップとかでもLPの扱いが中心。まあ、アナログ向きの音楽なので、それもよいか、と。CDがほしい方はLoJinxのWEBショップとかをチェックしてみてください。LPも含めて、Tシャツとのバンドルもいろいろ。

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