ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦:デラックス・エディション/キンクス
ここ数年、恒例のようになっているオリジナル・アルバム50周年記念デラックス版シリーズ。去年の『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡(50周年記念エディション)』に続いて、今年は1970年リリースの意欲作『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦』の50周年記念デラックス・エディションが出た。
キンクスというバンドは、初期、ハードなギター・リフをフィーチャーしたビート・グループとして活躍していた時期を経て、やがてサイケデリックな手法やフォーク・ロック的なアプローチを取り入れ、レイ・デイヴィス一流の屈折を全面に押し立てるようになっていったわけだけれど。
ヒットチャート的な視点で振り返ると、1966年、アルバム『フェイス・トゥ・フェイス』からのシングル・カット曲「サニー・アフタヌーン」が全英1位、全米14位に輝いたころ、あるいは1967年、アルバム『サムシング・エルス・バイ・ザ・キンクス』からのシングル・カット「ウォータールー・サンセット」が全英2位にランクしたあたりまでが最初の黄金時代で。
続く1968年の『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』と、翌69年の『アーサー』は、まあ、こと商業的にはあまり快調ではなかったらしく。クロウト筋では高く評価されるものの、どうも売れない。レイ・デイヴィスのシニカルすぎる持ち味のせいか、ある種大がかりなコンセプト・アルバム志向のせいか…。
まあ、ぼくはその当時、中学生で。大好きなDJ、八木誠さんのAMラジオ番組をよく聞いていた。で、大のキンクス・ファンだった八木ちゃんが番組で「ヴィレッジ・グリーン」とか「シャングリラ」とか「ヴィクトリア」とか、英米では地味な戦績しか残せなかったシングルががんがんかけまくっていたもんで。おかげで、彼らが売れていないなんて、想像だにしていなかったのだけれど(笑)。
そんなキンクスがチャート的にもぐっと盛り返したのが、今回デラックス版が出た『ローラ対パワーマン…』だった。シングル・カットされた「ローラ」が全英2位、全米9位にランクする久々のビッグ・ヒットに。その後押しも受けてアルバム自体、アメリカでトップ40へと返り咲き。音楽的な評価と商業的な成功がようやくつり合う形となった。
『ローラ対パワーマン…』は、レイ・デイヴィスが自らの姿を託したと思われるロック・シンガーが主人公のロック・オペラ的コンセプト・アルバムで。主人公は成功を収めるものの、業界との軋轢や憧れの米国への失望などの果て、やがて新たな価値観を手に入れていく。そんなさまを描いた傑作だった。ジェンダー・フリー的な、今、そのまま受け止めてもおかしくないテーマも盛り込まれていた。
今回出たのは、そのデラックス・エディション。いろいろなフォーマットで出ていて。最新リマスターをほどこしたオリジナル・アルバム全13曲そのまま復刻したアナログLP版、オリジナル・アルバムにシングル曲の別ヴァージョン、別ミックス、B面に収められていたアルバム未収録曲などボーナス5曲を追加した1CD版、そこにデモ音源、アウトテイク、未発表曲、さらにはレイ・デイヴィスが2010年にデンマーク国立室内楽オーケストと合唱アンサンブルと共演したときのライヴ音源などレア音源15曲を上乗せした2CD版、レア音源をさらに15曲加えて曲順も入れ替えつつ再構築されたCD3枚+「ローラ」と「エイプマン」のアナログ7インチ・シングル2枚、および60ページのブックレットをちょっと大きめの箱に収めた豪華ボックスセットなど…。
もちろん、ここは全部乗せ的なボックスセットで…と、強くおすすめしたいところなのだけれど。ぼくが手に入れたボックスセット、実はそのディスク1と2が2CD版のディスクにすり替わっていて。ボックス版と収録曲が違っていたのでした! なんだよ、まったくー。なので、ボックスセットのほうの評価というのがちゃんとできない。ぼくが持っているのは2CD版+ボックスセットのディスク3+7インチ2枚という、なんとも変則的なものになってしまっております。これはこれで珍しいのかな。みんな同じなのかな。だとしたら大変だな。んー、どうしよう…(笑)。
なので、今回はとりあえず、少なくともちゃんと内容を味わうことができた2CD版のほうでおすすめしておきます。レア音源のラインアップとしてはこちらでもほぼ満足できる仕上がりだと思うし。当時のキンクスの試行錯誤が十分立体的に味わえます。
ちなみに、ストリーミング版もあるけれど。こちらはオリジナル・アルバム13曲にレア音源9曲追加というフォーマットです。