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Disc Review

Thunderclouds / Louis Philippe & The Night Mail (Tapete Records)

サンダークラウズ/ルイ・フィリップ&ザ・ナイト・メール

渋谷系世代やネオアコ世代にはとてつもない吸引力を持った名前だと思う。ルイ・フィリップ。そのあたりのファンにとってはもう説明不要の存在だろう。elレコードでの奮闘ぶりとか、まじ懐かしい。ロンドンを本拠に活動するフランス人シンガー・ソングライター。『SMiLE』期のブライアン・ウィルソンからの多大なる影響を公言する人だっただけに、ぼくにとってもずっと気になる存在であり続けてきた。

ただし、このところ音楽活動からは離れ、フィリップ・オークレーという本名でサッカー関係のジャーナリストをしていたのだとか。海外サッカー事情に疎いぼくはその動向をまったく知らなかったのだけれど。いずれにせよ、音楽家としてのアルバム・リリースということになると、2007年の大傑作『アン・アンノウン・スプリング』以来ずっと沈黙状態だった。

ところが今年の6月になって、突如活動を再開。ヤング・マーブル・ジャイアンツのスチュアート・モクサムとのコラボレーション第2弾アルバム『ザ・デヴィル・ラフズ』をリリースしてくれた。連名でのアルバム・リリースとはいえ13年ぶりのことだけに、ちょっとうれしかった。

で、いったん動き出したら止まらないということか。たたみかけるように、さらなる新作が登場した。今度はバンド名義。かつて、2015年にジョン・ハワードとのコラボレーションで独ハンブルグのインディ・レーベル、タピート・レコードからアルバムをリリースしたこともあるバンド、ザ・ナイト・メールとのコラボレーション・アルバムだ。

ザ・ナイト・メールはウィーン生まれのギタリスト/コンポーザーであるロバート・ロティファー、ポール・ウェラー・バンドのメンバーでもあるベーシストのアンディ・ルイス、ペイパーナット・ケンブリッジのドラマーであるイアン・バトンから成る3人組。なんでも2017年、フィリップはロンドンで催されたタピート・レコード創設15周年記念ライヴで彼らと共演して意気投合し、一緒にアルバムを作ろうと盛り上がったのだとか。そのときの約束を3年越しで果たした新作ということになる。

腕利きバンドとのコラボということもあり、ルイ・フィリップとしては珍しいスタジオでの一発録り基調のレコーディング。今年、英国で発令された最初のロックダウンが開けたあと、フィリップとロティファーがミーティングしながら計画を練って、9月初旬、2度ほどバンドでリハーサルしたところで一気に全13曲のバックトラックを録音してしまったらしい。

もちろん、ルイ・フィリップならではの多重録音によるヴォーカル・ハーモニー・アンサンブルもオーヴァーダビングされている。シャンティ・ジャヤシンハのトランペットやレイチェル・ホールのヴァイオリンなども加えられた。そうした緻密なスタジオワークと、一発録りならではのグルーヴと、両者のいいとこ取りという感じの仕上がりになった。

クールなジャズ・テイストに貫かれたオープニング・チューン「リヴィング・オン・バロウド・タイム」。いかにもルイ・フィリップ!という感触の浮遊感に満ちたコード進行とハーモニー・アンサンブルを堪能できる「ワンス・イン・ア・ライフタイム・オヴ・ライズ」。チャン・チャン・チャン・チャン…という60年代サンシャイン・ポップふうの四分打ちピアノをバックにA&Mっぽいトランペットが軽やかに舞うイントロから『SMiLE』的な郷愁をたたえたヴォーカル・パートへとなだれ込んでいく「リオ・グランデ」…。冒頭数曲の流れだけで、もうやばい。

同じく『SMiLE』の、それもかつてブートレッグで聞いていたバックトラックっぽい世界観を、よりクラシカルなアンサンブルと交錯させた「ウィロウ」。バート・バカラックっぽい3拍子のメランコリックなメロディに乗せて、2017年に多くの死者を出したグレンフェル・タワー火災への思いを静かに綴った「フォール・イン・ア・デイドリーム」。ミスティなムードが印象的なアルバム・タイトル・チューン。ちょっぴりソウルフルな「ラヴ・イズ・ジ・オンリー・ライト」。架空のサウンドトラックといった趣きの「アルファヴィル」などなど、その後の展開も聞き逃せない。

チェンバー・ポップ/バロック・ポップの名盤がまたひとつ…って感じです。

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