Disc Review

Anthology: The Deluxe Collection / Ike Turner & The King of Rhythm (Master Tapes Records)

アンソロジー:ザ・デラックス・コレクション/アイク・ターナー&ザ・キングズ・オヴ・リズム

レココレの最新号を読みながら、やっぱロックンロールは最高だな、と(笑)。子供みたいなこと、改めて感じたハギワラです。

以前も書いた通り、つい先日出たばかりのレココレ8月号の特集は“アイ・ラヴ・ロックンロール〜ロックンロール第二世代”。5月に亡くなった偉大なオリジネイター、リトル・リチャード、3月に亡くなった「アイ・ラヴ・ロックンロール」の作者、アラン・メリルらへの追悼の意も込めたもので。

今週の木曜日、海の日の夜のリモートCRT第二弾は、この特集とがっつりタッグを組んだ形でお届けします。萩原、祢屋、能地のCRTレギュラー出演者3人も選曲/解説に絡ませていただいた必聴曲リスト全203曲ってやつを中心に、あれこれ掘り下げます。3人それぞれがセレクトしたストリーミング・プレイリストも、当日、画面を通じて公開する予定です。レココレをより立体的に読むための助けにしていただければ。

てことで、視聴チケットは https://crt248.peatix.com/ で。7月23日20時までの販売です。アーカイブ期間は3日間。パソコンの方は右のサイドバー、スマホの方は下のインフォメーションを参照のうえ、こぞってのご参加、お待ちしています。

で、この特集、ロックンロール第二世代をメイン・テーマに据えているものの、それ以前、ロックンロール黎明期に関する記事というやつもあって。それをぼくが執筆させてもらってます。そっちの話もいろいろできればな、と考えて、記事に合わせたプレイリストも鋭意作成中。こちらもぜひお楽しみに。

ロックンロールの誕生が1950年代アタマだとして。年齢で言うと60歳代後半って感じ? てことは、ぼくも含めて、今、音楽を楽しんでいるリスナーってのは、ほぼ全員、気がついたときにはすでにロックンロールがこの世に存在していたわけで。あって当たり前な音楽なのだけれど。

でも、もちろんロックンロールがなかった時代というのもあって。じゃ、初のロックンロール・レコードはいつ誕生したのか。それは何だったのか、と。これには諸説渦巻いていて。そのあたりのことも今回のレココレの記事には書かせてもらった。1922年のトリクシー・スミス「マイ・マン・ロックス・ミー(ウィズ・ワン・ステディ・ロール)」、1939年のバディ・ジョーンズ「ロッキン・ローリン・ママ」、1948年のワイルド・ビル・ムーア「ウィーアー・ゴナ・ロック」、1950年の“リル・サン”ジャクソン「ロッキン・アンド・ローリン」やビリー・ワード&ザ・ドミノズ「シックスティ・ミニット・マン」、1954年のクロウズ「ジー」やコーズ「シュ・ブーム」など。

1951年のジャッキー・ブレンストン&ヒズ・デルタ・キャッツ「ロケット88」もそんな1曲だ。今以上に人種差別が激しかった1950年代、それぞれ別分野に区分けされて存在するしかなかった黒人音楽と白人音楽とが、堅固な障壁を乗り越えて運命的な融合を果たした新奇な音楽のことをロックンロールと呼ぶのだとすれば、確かにこの「ロケット88」という曲はその起源のひとつとして語り継がれるべき重要な作品だろう。

実際に演奏しているのは、のちに夫婦R&Bデュオ、アイク&ティナ・ターナーで名をあげることになる黒人ギタリスト、アイク・ターナー率いるキングズ・オヴ・リズム。歌っているジャッキー・ブレンストンはこのバンドのサックス奏者だった。ほどなくエルヴィス・プレスリーを見出しひと山当てることになる白人プロデューサー、サム・フィリップスの指揮のもと、彼のメンフィスのレコーディング・スタジオ(のちのサン・スタジオ)で録音されたジャンプ・ブルース調のナンバーで、ブレンストン名義で発売された。

発売間もない話題の車“オールズモビル88”を手に入れた男が愛車自慢しまくるだけの曲なのだけれど。ブレンストンによる激しいサックスのブロウと、スタジオまでのハードな長旅の間、車で運搬していたギター・アンプが壊れて歪んだ音しか出なくなってしまったことが偶然にも生み出すことになったアイク・ターナーのエレクトリック・ギターのディストーション・サウンドが大いに受け、当時、全米R&Bチャート1位に輝いた。

黒人ミュージシャンと白人プロデューサーが本格的にタッグを組んで生み出した初期の大ヒット曲として、プロデュース/エンジニアリングを手がけたフィリップス自身、これぞロックンロールの誕生を告げた1曲だと主張していた。

別の見方をすれば、この曲、ホットロッド・チューンというか、カー・ソングというか、そういう分野でも重要な存在だ。車は米国人の必需品。それだけにブルーグラスの王様、ビル・モンローの「ヘヴィ・トラフィック・アヘッド」(1946年)、カントリーの父、ハンク・ウィリアムス「ロスト・ハイウェイ」(1949年)、ブルースのサニー・ボーイ・ウィリアムスン「ポンティアック・ブルース」(1951年)など車絡みの音楽は様々なジャンルで古くから多数生まれてきたのだけれど。ロックンロール的な視点で振り返る限り、本曲こそが最古のカー・ソングかもしれない。

と、そんな重要な楽曲を1曲目に収めたアイク・ターナー&ザ・キングズ・リズムのCD2枚組アンソロジーが新たに編まれた。キングズ・オヴ・リズム名義にはなっているけれど、ジャッキー・ブレンストンもの、ジョニー・ライトもの、ビル・ゲイルズものなど、キングズ・オヴ・リズムの別名義音源はもちろん、ボビー・ブランド、クレイトン・ラヴ、エルモア・ジェイムス、ボイド・ギルモア、ドリフティング・スリム、ザ・スライ・フォックスなど、アイク・ターナーが主にピアニストとしてレコーディングに関わった他アーティストの音源などにまで手を伸ばしたアンソロジーで。

あからさまなパクリみたいな曲も次々出てくるけれど、そういうパクりパクられのドラマも含め、新しい時代の新しい音楽が生まれてくる胎動というか、シーン全体の躍動というか、そういうのがここには詰まっている。

まあ、善玉と悪玉という、ざっくりわかりやすい対立関係で振り返られることが多いせいか、アイク&ティナ・ターナー夫妻の場合、どうしてもティナ奥さまに分がある。確かに、のちに伝えられている情報から判断する限り、どう見ても旦那だったアイクの言動はやばすぎるし。ずいぶんとティナさんも耐えていたんだろうなとは思う。人としてはクズみたいな…(笑)。

とはいえ、ギタリスト、バンド・リーダー、プロデューサーとしてのアイクの功績はアイク&ティナの成功も含めてなかなかにすごいものだ。ブルース界での存在感も大きい。今回のアンソロジー、一部タイトルと実際の音源とが食い違っていたりする曲もあるので、注意は必要なのだけれど。そのあたりの細かいことをあまり気にせず、ロックンロール黎明期のブルース/R&Bシーンがどんな感じだったのかをざっくり楽しむには悪くない。“最高のジューク・ボックス・ヒット”と発売当時のビルボード紙でレビューされていたマンボ・ブルース「クバーノ・ジャンプ」とか、大好き。エルヴィスが全米デビューする以前、1954年のギター・インストだけど。ロックンロール的なやばさ満点です。

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