デジャ・ヴ:ジ・アリスタ・レコーディングズ (1979-1994) /ディオンヌ・ワーウィック
ディオンヌ・ワーウィックというと、やはり1963年から1971年まで在籍していたセプター・レコード時代の歌声がいちばんおなじみかも。主に、バート・バカラック作品の魅力を最大限に引き出せる素晴らしい歌い手として高く評価されていた時代だ。その後、彼女はワーナーへ。1972年から1978年まで在籍して、スピナーズと組んで全米ナンバーワン・ヒットを飛ばしたり、あれこれやって。
で、そのあと、1979年から1994年まで、実は彼女がもっとも長い期間在籍していたのがアリスタ・レコードだ。アリスタのトップ、クライヴ・デイヴィスの指揮下、ディオンヌは改めてコンテンポラリーなポップ・シーンにコミットしていくことになる。そんな時代の全オリジナル・アルバムを網羅したボックス・セットが本CD12枚組だ。
あまりにも大物すぎるせいか、自称“硬派な”ソウル・ファンとか、マニアックなオールディーズ・ファンとかからはつい見逃されがちなディオンヌだけれど。この人はいいですよー。いつの時代も。ということで、ある意味、彼女の再充実期とも言えるアリスタ時代の再評価のためにも、本ボックス、絶好のアイテムではないか、と。
ということで、全ディスク、ざっと紹介しておくと——
ディスク1は『ディオンヌ』(1979年)。同じアリスタに在籍していたバリー・マニロウをプロデューサーに迎えた1枚。リチャード・カー作の必殺アダルト・コンテンポラリー・バラード「涙の別れ道(I’ll Never Love This Way Again)」をはじめ、「デジャ・ヴ」「アフター・オール」の3曲のヒット・シングルを含んでおり、ディオンヌにとってキャリア上初のプラチナ・アルバムとなった。グラミーも2部門獲得。1979年初頭のセッションからアルバム未収録音源3曲をボーナス追加している。ボーナスの中では、バリー・マニロウが1976年にレディ・フラッシュに提供した「ネヴァー・ゴナ・レット・ユー・ゲット・アウェイ」のカヴァーが最高。レディ・フラッシュ版より全然いい。ソロ、マニロウとのデュエット、両ヴァージョンあり。
ディスク2は『ノー・ナイト・ソー・ロング』(1980年)。スティーヴ・バッキンガムのプロデュース作品。前作のヒットにあやかって引き続きカヴァーしたリチャード・カー作の表題曲をはじめ、ミディアム・メロウ系の「イージー・ラヴ」といったシングル・ヒット曲のほか、キャロル・ベイヤー・セイガー&デヴィッド・フォスター作のキャッチーな「イッツ・ザ・フォーリング・イン・ラヴ」とか、相変わらず充実の仕上がり。未発表トラックやシングルB面曲など9曲がボーナス追加されている。
ディスク3は『ホット! ライヴ&アザーワイズ』(1981年)。新曲、旧曲交えたライヴ・アルバムだ。20分近いヒット・メドレーあり。ボーナス2曲追加。
ディスク4は『フレンズ・イン・ラヴ』(1982年)。ジョニー・マティスとのデュエット・ヒットである表題曲のほか、やはりシングル・ヒットした「フォー・ユー」、翌年セルジオ・メンデスが取り上げてヒットさせるバリー・マン&シンシア・ワイル作品「ネヴァー・ゴナ・レット・ユー・ゴー」、アース・ウィンド&ファイアの「キャント・ハイド・ラヴ」やスタイリスティックスの「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」のカヴァーなどを含むごきげんな1枚だ。プロデュースはジェイ・グレイドン。
ディスク5は、これまた特大ヒット・アルバム『ハートブレイカー』(1982年)。バリー・ギブ作/プロデュースの表題曲と「オール・ザ・ラヴ・イン・ザ・ワールド」というシングル・ヒット2曲を含む。バリー・ギブが提供する適度なえぐさが大受けしたか、ディオンヌにとって最大のヒット・アルバムとなった。「アワ・デイ・ウィル・カム」のカヴァーもなかなかの仕上がり。バリー・ギブとのデュエット「レット・イット・ビー・ミー」のデモ音源をボーナス追加。
ディスク6は『さよならは一度だけ(How Many Times Can We Say Goodbye)』(1983年)。ルーサー・ヴァンドロスがプロデュースした1枚だ。アップものもバラードも超ブラコンな1枚。ヴァンドロスとのデュエットによる表題曲と、ディスコ調の「ガット・ア・デイト」がヒットした。個人的には、かつてセプター・レコードのレーベル・メイトだったシレルズの面々をコーラスに迎え、彼女たちのヒット「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」をカヴァーしているのが泣けた。
ディスク7は『ファインダー・オヴ・ロスト・ラヴズ』(1985年)。グレン・ジョーンズ、スティーヴィー・ワンダー、バリー・マニロウらとのデュエットを含むバラエティ豊かな1枚だ。ボーナスが5曲追加されていて、その中には同名テレビ・シリーズで使われた表題曲のオリジナル・ヴァージョンも入っている。これ、アルバムではグレン・ジョーンズとのデュエットだったけれど、オリジナルのほうはルーサー・ヴァンドロスとのデュエット。しかもバート・バカラック作。久々のバカラック=ワーウィックの本格タッグがうれしかったものです。
ディスク8は『フレンズ』(1985年)。もともとはロッド・スチュワートが歌っていたバカラック作品をグラディス・ナイト、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョンとともにカヴァーし、米国エイズ研究財団のためのチャリティー・シングルとしてリリースした「愛のハーモニー(That's What Friends Are For)」をフィーチャーした1枚だ。この曲をはじめ、全10曲中半分の5曲がバカラック絡みというのもうれしい。ブルース・ロバーツ作の「ウィスパー・イン・ザ・ダーク」もちょっとだけヒットした。
ディスク9は『リザヴェーションズ・フォ・トゥー』(1987年)。カシーフとデュエットした表題曲のほか、ジェフリー・オズボーンとの「ラヴ・パワー」、ハワード・ヒューエットとの「アナザー・チャンス・トゥ・ラヴ」、スモーキー・ロビンソンとの「ユーアー・マイ・ヒーロー」、ジューン・ポインターとの「ハートブレイク・オヴ・ラヴ」など、多彩なデュエットが楽しめる1枚。シングル・ヒットしたオリジナル・アルバム未収録の「テイク・グッド・ケア・オヴ・ユー・アンド・ミー」(これもジェフリー・オズボーンとのデュエット)やジョニー・マティスのアルバムに収められていたデュエット音源などをボーナス追加。「テイク・グッド・ケア…」も含め、バカラック作品が4曲。
ディスク10は『シングス・コール・ポーター』(1990年)。文字通りのコール・ポーター作品集。アリフ・マーディンがプロデュースしている。もともとはよりジャジーな仕上がりを狙って制作されていたらしい。が、アリスタの重鎮、クライヴ・デイヴィスがそれじゃダメだ、もっとポップに…と横やりを入れて作り直された。ディオンヌ本人によると「ものすごく“ヴァニラ”なものになってしまった」とのこと。もともとどんな感じになるはずだったか、そのヒントはボーナス収録された「ナイト・アンド・デイ」の初期ヴァージョンで、なんとなく、ほのかに聞き取れるかも。
ディスク11は『フレンズ・キャン・ビー・ラヴァーズ』(1993年)。バート・バカラック&ハル・デヴィッド作の「サニー・ウェザー・ラヴ」、ホイットニー・ヒューストンとデュエットした「ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ」、リサ・スタンスフィールド作の表題曲、スティングのカヴァー「フラジャイル」などを含む1枚だ。岩谷時子=いずみたくの「夜明けの歌」が収められたことも日本では話題に。スピナーズとデュエットしたシングル「アイ・ドント・ニード・”アナザー・ラヴ」など3曲をボーナス追加。
で、ディスク12はアリスタでのディオンヌ最後のアルバム『ブラジルの水彩画(Aquarela Do Brazil)』(1994年)。アントニオ・カルロス・ジョビン作品のメドレーで幕を開けるブラジル音楽集だ。その筋の腕ききたちにサポートされた、かなりアーティスティックな仕上がり。ボーナス5曲追加。
いやー、まじ、堪能できます。