Disc Review

Tie Me To You / Kathleen Grace with Larry Goldings (Monsoon Records)

タイ・ミー・トゥ・ユー/キャスリーン・グレイス&ラリー・ゴールディングズ

アリゾナ州ツーソン生まれで、現在はロサンゼルスを本拠に活動中の女性アーティスト。もうデビューして15年くらいになるみたい。

ぼくは勉強不足で、この人の歌声に初めて触れたのは5年ちょい前。2013年だったか2014年だったか。プロデューサーとして、あるいはベーシストとして、ウォーレン・ジヴォン、ベン・ハーパー、リッキー・リー・ジョーンズ、ライアン・アダムズらと仕事してきているベテラン、シェルドン・ゴムバーグの下、グレッグ・リーズやウィル・グラムリングらも参加したアルバム『ノー・プレイス・トゥ・フォール』をリリースしたときだ。

これは参加している顔ぶれからも想像できる通り、アメリカーナ系の1枚で。けっこうよかったので、以前のアルバムも探してみた。2枚見つかった。けど、それらはビートルズ・ナンバーなども含むジャズ・ヴォーカルもので。ちょっと驚いた。基本的な素養としてはそっち方面の人らしい。ただ、デビュー後10年近く経って、『ノー・プレイス・トゥ・フォール』を出す際、心機一転、ある種の刺激を求めての路線変更って感じだったのかも。

と、そんなキャスリーンさんの久々のフル・アルバムの登場だ。キックスターターでリリース〜プロモーション関連資金を調達して世に出た新作。今回はソロとしても、セッションマンとしても、素晴らしい演奏を無数に残している名キーボード・プレイヤー、ラリー・ゴールディングズとの連名というか、デュオ名義というか、そういう形でのリリースだ。といっても、歌の人と伴奏の人、みたいなお仕事っぽい感じではなく、キャスリーンさんとラリーさん、二人でひとつの個性というか、弾き語りしているみたいな感じで。そこに最低限、最小限の楽器によるサポートが実にさりげなく加わる、と。

とはいえ、そのさりげないサポートがまた素晴らしく。随所に効果的に滑り込んでくるヴァイオリンはパンチ・ブラザーズのゲイブ・ウィッチャー。ウッドベースはk.d.ラングやホリー・コール、ジョー・ヘンリーあたりとの仕事でもおなじみ、デヴィッド・ピルチ。ブラッド・メルドーやパット・メセニー、チャールズ・ロイドらとプレイしている名手ダレク・オレシュキェヴィッチも1曲だけ参加。エンジニアは前作から引き続きのシェルドン・ゴムバーグ。

収録曲のうち、アルバム・タイトル・チューンと「エヴリホエア」がラリー・ゴールディングズ&キャスリーン・グレイスの共作オリジナルだ。リチャード・ロジャース&ロレンツ・ハート作の「ホエア・オア・ホエン」、レイ・ヘンダーソン&ルー・ブラウン作の「ザ・スリル・イズ・ゴーン」、コール・ポーター作の「ラヴ・フォー・セイル」、アーヴィング・バーリン作の「ホワットル・アイ・ドゥ」がいわゆるグレイト・アメリカン・ソングブックもの。

ダイアナ・クラールのバンドなどでも超絶テクニックを披露しているギタリスト、アンソニー・ウィルソンが作ってくれたミックス・テープで知ったという「ジョン・ザ・レヴェレイター」はブラインド・ウィリー・ジョンソンやサン・ハウスでおなじみのブルース。フランス語で歌われる「ベルスーズ」はフランソワーズ・アルディのレパートリーとしても知られるフレンチもの。「エンバカデロ」はベースのダレク・オレスとのコミュニケーションの中で仕上がったエキゾチックなナンバー。で、ラストの「アイル・フォロー・ザ・サン」はご存じビートルズ作品。

ジャズ、アメリカーナ、ブルース、フレンチ・ポップ、エキゾチックもの、ビートルズもの…。なんとも柔軟な選曲センスが素敵だ。キャスリーンさん、今回はどういう路線で…とか、そういう余計なことを考えず、ラリー・ゴールディングズとのナチュラルかつリラックスした音のやりとりの中、自然体で編み上げた1枚という感じだ。

キャスリーン&ラリー? グレイス&ゴールディングズ? KG/LG? デュオ名はどう略せばいいかわからないけど、けっこういいコンビだと思う。このパートナーシップを本作だけで終わらさず今後も続けていってもらいたいものです。
(※なぜかApple Musicでまだアルバムがストリーミングされていないので、今朝はSpotifyにリンクしてみました)

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