カム・ゴー・ウィズ・ミー〜ザ・スタックス・コレクション/ザ・ステイプル・シンガーズ
昨日、近所の西友に行ったら、マスクだの消毒液だのトイレットペーパーだのだけじゃなく、米やカップ麺までカラッカラになくなってて。人間ってのは、弱いものだなぁ…と悲しくなったものです。いろいろ人間の脆さみたいなものを思い知る今日この頃。ゴスペルでも聞きましょうかね。
ステイプル・シンガーズ。
もともとシカゴを拠点にゴスペルを演奏していたローバック“ポップス”ステイプルズが、娘や息子たちを引き連れてステイプル・シンガーズを結成したのは1948年ごろ。1953年に自主制作のような形でレコード・デビューを果たして、以降、ワンド、ヴィー・ジェイ、リヴァーサイド、エピック、スタックス、カートム、ワーナー、20thセンチュリー、プライヴェイトIなど、様々なレーベルを渡り歩きながら独自のゴスベル・ソウルを聞かせ続けてきたわけだけれど。
どの時代が…ということになると、まあ、たとえばぼくだと、1967年、ゴスペル・スタンダードとともにバッファロー・スプリングフィールドの曲なども取り上げ、時代に対してファンキーにメッセージをぶちかましてみせた『フォー・ホワット・イッツ・ワース』とか、カーティス・メイフィールドとのタッグがごきげんだったカートム・レコードからの唯一のリリース、1975年の映画『シドニー・ポワチエ〜一発大逆転』のサントラ盤『レッツ・ドゥ・イット・アゲイン』が好きだったり、聞き手それぞれ細かい好みの違いはあるだろうけれど。
大きく捉えれば断然、ちょうどその両者の間、1968年から74年、メンフィスの名門スタックス・レコード在籍期の活動こそが彼らのピークだということになりそう。1960年代半ばまでは、もっと真っ向からゴスペルゴスペルしていた彼らがぐっとR&B寄りに足場を移した時期。確かにここから彼らが本格的に本領を発揮し始めた。
そんな黄金期にステイプルズがスタックスに残した音源を総まくりしたボックスセットの登場だ。この時期のオリジナル・アルバム群に関してはきっちりCD化再発もなされているので、別に聞けなかったわけではないものの、今回は180グラム重量盤アナログLPでの復刻。オリジナル・アナログ・マスターからのニューリマスタリング、オリジナル・アルバムを忠実に再現したレプリカ・ジャケット、ティップ・オン・ジャケット仕様。見逃せません。高いけど…(笑)。
ディスク1から6までがオリジナル・アルバム群のストレート復刻。1968年の『ソウル・フォーク・イン・アクション』、1969年の『ウィール・ゲット・オーヴァー』、1971年の『ザ・ステイプル・スウィンガーズ』、同じく1971年の『ビー・アティテュード〜リスペクト・ユアセルフ』、1973年の『ビー・ホワット・ユー・アー』、1974年の『シティ・イン・ザ・スカイ』の6作だ。で、ディスク7がボーナス・ディスク。シングルのみでリリースされた音源に加えて、『ワッツタックス』でのライヴ音源など、レアなところが収められている。
1960年代後半というと、世の中が徐々にアルバム志向になってきたころで。スタックス自体もそれまでのシングル・ヒット中心のやり方を脱けだそうと模索していたようで。ステイプルズの作品群はその絶好のテスト・ケースだったらしい。スティーヴ・クロッパーのプロデュースによる最初の2作『ソウル・フォーク・イン・アクション』と『ウィール・ゲット・オーヴァー』あたりはその過渡期という感じで。行ったり来たりの印象が、逆に今の時代となってみると面白い。
『ソウル・フォーク・イン・アクション』のほうは、活動初期、スタックスに在籍していたデラニー&ボニーが曲作りに絡んだ「ウィーヴ・ガット・トゥ・ゲット・アワセルヴズ・トゥゲザー」や「ザ・ゲットー」などに加え、オーティス・レディングの「ドック・オヴ・ザ・ベイ」、ザ・バンドの「ザ・ウェイト」あたりが入り乱れるし。『ウィール・ゲット・オーヴァー』に至っては、ポジティヴなメッセージ・ソングである表題曲に始まって、スパンキー&アワ・ギャングの「ギヴ・ア・ダム」があって、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「エヴリデイ・ピープル」があって、日本の「ソーラン節」の調子のいいカヴァーがあって、ジョー・サウスの「孤独の影」があって…。
改めて聞きながらわくわくする。けど、やはりスタックスの共同経営者でもあったアル・ベルがプロデュースを手がけるようになった1971年の『ザ・ステイプル・スウィンガーズ』以降の諸作の手応えが素晴らしい。特に『ビー・アティテュード〜リスペクト・ユアセルフ』。当たり前の話ではあるけれど、これが最高傑作だ。「アイル・テイク・ユー・ゼア」「リスペクト・ユアセルフ」「ジス・ワールド」というヒット・シングルをフィーチャーしつつ、アルバム全体がひとつのポジティヴなコンセプトに貫かれていて。伝統的なゴスペルとスタックスR&Bとブルース・ロックとの合体という音楽的テーマも、ここに至って全うできた感じ。メイヴィス・ステイプルズのヴォーカルもある種の高みに達しているし。
ボーナス・ディスクに入っている『ワッツタックス』でのライヴ・ヴァージョンとかも合わせて聞くと、この時期、ステイプルズがどういう立場にいたのか、なんとなくつかめるようで面白い。「アイ・ライク・ザ・シングズ・アバウト・ユー」のパフォーマンス中、野外会場を埋め尽くした若い黒人オーディエンスたちに向かってポップス・ステイプルズは、まるで牧師のようにこうMCする。“知っておいてほしいことがある。我々はひとかどの者だってことを”と。マーティン・ルーサー・キングの遺志をポップスはきっちり受け継ぎ、歌という武器とともに、毅然と社会に対峙していた。
しっかり生きなくちゃ…!