Disc Review

That's What I Heard / Robert Cray Band (Nozzle/Thirty Tigers)

ザッツ・ホワット・アイ・ハード/ロバート・クレイ・バンド

「ファンキーで、クールで、そしてバッド」

YouTubeに載っていたインタビューで、ロバート・クレイ自身が新作アルバム『ザッツ・ホワット・アイ・ハード』について語った言葉だ。いいね。まさにそういう感じ。1980年にアルバム『フーズ・ビーン・トーキン』でレコード・デビューを果たしてから今年で40年。まったく衰えぬ痛快な持ち味を発揮しながら、ロバート・クレイは今なおごきげんに躍動し続けている。

デビューしたころは特にコンテンポラリー・ブルース・シーン期待の新人、みたいな感じでもてはやされていたものだけれど。ご存じの通り、この人、根っからのブルース志向じゃない。子供のころ、音楽に親しむキッカケを作ったのはB.B.キングやエルモア・ジェイムスやマジック・サムや、そういった偉大なるブルースマンじゃなかった。ビートルズだ。1987年、エリック・クラプトンのオープニング・アクトとして彼が来日したときにインタビューする機会を得て直接聞いたところによると、少年時代のヒーローはビートルズをはじめ、ジョン・メイオール、ジミ・ヘンドリックスなど、主に60年代後半に活躍していたロック・スターばかり。1953年生まれという年齢的にいってもうなずける。

完璧なロック世代。ブルースにのめり込んだのはハイスクール以降だ。ハイスクール時代に、ソリッドで凶悪なギター・プレイで知られるブルースマン、アルバート・コリンズのステージを目の当たりにして目覚めたのだとか。年代的にはそれがたぶん1970年前後。遅い目覚めだ。ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンに後れること10年。でも、そんな後発のハンデを逆手にとって可能性へと転じ、ブルースとロックとR&Bとゴスペルとファンクと…多様な音楽性を柔軟かつ奔放にブレンドしつつ、ロバート・クレイはルーツ色溢れる彼ならではのネオ・ソウル・ミュージックを築き上げた。そういう意味ではハードコアなブルース・ファンからはなにかとお小言を頂戴しがちなところもあるけれど。それがこの人の個性。

今回もそういう1枚です。1999年以来、ちょいちょいタッグを組んできたスティーヴ・ジョーダンのプロデュース。このコンビでの5作目かな? 6作目かな? ブルースの音楽的フォーマットとかにとらわれることなく、のびのびとロバート・クレイ流ルーツ・ミュージックの様々な形を盤面に記録してみせている。

クレイ本人が書いた新曲が「エニシング・ユー・ウォント」「ホット」「ユー・キャント・メイク・ミー・チェンジ」「ジス・マン」、そして「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」の5曲。「ジス・マン」は前作の「ハウ・ロウ・キャン・ユー・ゴー」に引き続き、ドナルド・トランプをストレートにディスる強力な糾弾曲。「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」は一昨年亡くなったトニー・ジョー・ホワイトのために書かれた必涙バラードだ。加えて、ベースのリチャード・カズンズが書いたクールでブルージーな「ア・リトル・レス・ロンリー」があって。これら6曲がオリジナル。残る6曲がカヴァーで。その選曲センスがまた一筋縄にはいかない。

「ベリーイング・グラウンド」はセンセイショナル・ナイチンゲイルズが1956年にリリースしたトラディショナル・ゴスペル。トラディショナルなのだけれど、作者としてよく“ドン・ロビー”という名前がクレジットされていて。これ、センセイショナル・ナイチンゲイルズが在籍していたピーコック・レコードの創設者/プロデューサーの名前。で、この人、“デッドリック・マローン”という別名でも曲を書いていて。そのひとつ、「ユーアー・ザ・ワン」も本作に入っている。こちらはボビー“ブルー”ブランドのカヴァー。

ちなみに、ブランドの「ユーアー・ザ・ワン」は、おなじみ「ターン・オン・ユア・ラヴ・ライト」のシングルB面曲で。この“シングルB面”という渋い選曲対象が本作には他にもふたつ入っている。ひとつはインプレッションズの「イッツ・オールライト」のB面というか、メジャー・ランスの「イッツ・ザ・ビート」のB面というか、カーティス・メイフィールド作の必殺ゴスペル・バラード「ユール・ウォント・ミー・バック」。もうひとつがドン・ガードナーの「アイ・ウォンタ・ノウ・ホエア・ディッド・アワー・ラヴ・ゴー」のB面、超グルーヴィなダンス・チューン「マイ・ベイビー・ライクス・トゥ・ブーガルー」だ。

「プロミス・ユー・キャント・キープ」はスティーヴ・ジョーダンがらみ。ファビュラス・サンダーバーズ名義でキム・ウィルソンがダニー・コーチマーとジョーダンと3人で1997年に作った実質的ソロ・アルバム『ハイ・ウォーター』に収録されていたソウルフルな曲だ。たまたま同じスタジオでレコーディング中だったスティーヴ・ペリーがコーラスで参加している。で、最後に収められた「ドゥ・イット」がビリー・シャーレイによるダンス・ヒットのカヴァー。こちらには、ティーンエイジャーのころシャーレイのバンドでプレイした経験もあるというレイ・パーカー・ジュニアがゲスト参加している。

スティーヴ・ジョーダンによると初期サム・クックの在り方を意識したとのことだけれど。なるほど。ヴォーカルはもちろん、ロバート・クレイならではのトーンが堪能できるギターも、全体を通して徹底的にスピリチュアルだ。前述「ジス・マン」だけはちょっと肌触りが違うけれど、あとはファンキーな曲も含めてそういう感じ。

冒頭のクレイの言葉と合体させれば、ファンキーで、クールで、バッドなゴスペルか。しびれるね。

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