Disc Review

One on One / Paul Carrack (Carrack-UK)

ワン・オン・ワン/ポール・キャラック

去年、ドイツのSWRビッグ・バンドとの共演による企画アルバム『アナザー・サイド・オヴ・ポール・キャラック』を本ブログで取り上げたときも書いたことだけれど。ポール・キャラック。抗えません。最高です。

BBCが“黄金の声を持つ男”と評した英ブルー・アイド・ソウル系アーティストの最高峰。エース、スクイーズ、マイク+ザ・メカニックスなどのリード・シンガーとして、あるいはソロとして、様々なヒットを放っているほか、セッション・ミュージシャンとしても大活躍。2013年以降、エリック・クラプトンが自身のバック・バンドにこの人をキーボード奏者としてちょいちょい起用してくれているおかげで、来日公演などで生のパフォーマンスをおがむことができた。メインとしてフィーチャーされるパートもちゃんと用意されていて。エイス時代の代表的ヒット「ハウ・ロング」とか何度か生歌で聞くこともできたし。ほんと、クラプトンには感謝するばかりですが。

そんなキャラックさんの新作。7月に出る予定とアナウンスされていたものの、ちょっと延期されて。でも、出ました。

パンデミックのせいで、去年1月からスタートしたワールド・ツアーが3月の段階で中断。すぐに再開されるだろうと読んで、中断期間、歌声が鈍らないようスタジオに入ってヴォーカルのトレーニングを続けていたらしいのだけれど、どうやら悪い状況が長引きそうだとわかり、急遽、スタジオでの作業を新作のレコーディングへと変更したのだとか。さすがベテラン。転んでもただでは起きない。

状況が状況だけに大人数をスタジオに迎えてのセッションは無理。ということで、基本的にキャラックさんがプロデュースし、アレンジし、マルチ・プレイヤーとしての才能を思いきり発揮してキーボードもギターもベースも、さらに久々にドラムまで、ひとりでほぼすべての楽器を演奏し、歌い、それを自らレコーディング。今回はなんとミックスまで自ら手がけているらしい。にもかかわらず、どの曲も見事なバンド・サウンドに仕上がっているところがすごい。かっこいい。

ロビー・マッキントッシュ(ギター)と、息子のジャック・キャラック(ドラム)がそれぞれ1曲ずつに客演。ホーン・セクションはさすがに本物じゃないと、ということで、名手ピー・ウィー・エリス(テナー・サックス)を含む4管が参加している。数曲、ミシェル・ジョンの多重バック・コーラスも…。

曲もほぼ全曲が自作。ツボを心得た痛快曲ぞろい。パンデミックによって閉ざされてしまったもの、引き裂かれてしまったもの、遠退いてしまったものなどに言及した歌詞もある。今の時代ならではの切なさ、むなしさ、前に進みたいのに進みきれないもどかしさなども描きつつ、持ち前のソウルフルな歌心をリラックスしたムードの下、肩の力を抜きつつ、さりげなく披露してみせる。時にブルージーで、時にファンキーで、時にメロウで、時にノーブルで…。レイ・チャールズ、ジェイムス・カー、B.B.キング、カーティス・メイフィールド、サム・クックなど、多くの偉大な先達のイメージがよぎる中、でも間違いなくポール・キャラックならでは、としか言えない個性が随所に炸裂。たまらない。

カヴァーは全10曲中1曲だけ。アルバムのクロージング・ナンバーとしてチャーリー・リッチが1973年から74年にかけて放った全米ナンバーワン・カントリー・ヒット「ビハインド・クローズド・ドアーズ」(ケニー・オデル作)を取り上げている。これまたナイスな選曲です。

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