ゼア・イズ・ノー・アザー…/イザベル・キャンベル
ベル&セバスチャンというバンドはもちろん今なお素敵で。去年リリースした映画『デイズ・オヴ・ザ・バグノルド・サマー』のサントラも素晴らしい仕上がりだった。散歩しながらよく聞いた。スチュアート・マードック、頼もしいなと思った。
でも、やっぱり1990年代後半、初期の彼らへの思い入れも強い。当時の彼らは本当にマジカルに輝いていた。要因は様々あるのだろうけど。たぶんいちばん大きかったのは、そのころ在籍していたこの人、イザベル・キャンベルの“声”。静かにささやくような、細くて、でも確かな意志をたたえながらしなやかに存在感を主張するキュートでユニークな歌声。それこそが初期ベル&セバスチャンの個性を決定づけていたのかな、と。そんなことを改めて思い知る1枚です。
マーク・ラネガンとのコラボレーションによるアルバム3作を挟んで、ソロ名義のアルバムとしては2006年の『ミルクホワイト・シーツ』以来。14年ぶり。近年は拠点を英国グラスゴーから米国ロサンゼルスへと移したそうで。そこでのレコーディングだ。クリス・シェックがプロデュース。ティーンエイジ・ファンクラブのデイヴ・マッゴーワンやスープ・ドラゴンズのジム・マカロックらも参加している。
このソロ・プロジェクトからの新曲「アント・ライフ」がYouTubeとかで公開されたのが去年の夏。あれから半年弱。ようやくアルバムがリリースされた。『ミルクホワイト…』には英国トラッド・フォーク的なニュアンスが強く漂っていたけれど、それに対してこちらは彼女流のローレル・キャニオン系カリフォルニア・ポップ? そう思えてしまうのは、録音場所をイメージしてのプラシーボなのでしょうか(笑)。
いやいや。オープニング・チューンが、いきなり「シティ・オヴ・エンジェルズ」なんて、まさにロサンゼルスを思わせるタイトルだったり、トム・ペティの「ラニング・ダウン・ア・ドリーム」のライトなシンセ・ポップ・カヴァーがあったり、タブラっぽいパーカッションやポルタメントを効かせたサイケデリックかつエキゾチックなストリングスにジョニ・ミッチェルっぽいギター・カッティングとチャールズ・ラーキーみたいなベース・ラインが絡む曲があったり、ゴスぺルっぽいコーラス・ハーモニーがスピリチュアルに音像を支配する曲があったり…。
プラシーボではなく、けっこうあの手この手で狙ってきている感じはある。でも、そこはやはり彼女の歌声の魔力。すべてがイノセントかつブリージーなものに思えてしまうから不思議。しみます。この声、半ば反則だなぁ…。
アコースティック・ヴァージョンなどを大量に含むデラックス・エディションもあります。