マッド・ラッド〜ア・ライヴ・トリビュート・トゥ・チャック・ベリー/ロニー・ウッド・ウィズ・ヒズ・ワイルド・ファイヴ
ロックンロールの黎明期、完全に他を圧倒した二大アーティストといえば、エルヴィス・プレスリーとチャック・ベリー。もちろん大衆的な人気という面では疑いなくエルヴィスに軍配があがるものの、それはあくまでもパフォーマーとしてのこと。ベリーはパフォーマーであると同時に偉大なソングライターであり、画期的なギタリストでもあった。そちらの側面から見れば、ベリーこそ現在へと脈々と連なるポップ・ミュージック・シーンに最もクリエイティヴな影響を与えた男ということになりそうだ。
なのに、特に日本では、このチャック・ベリーという人のすごさが今ひとつ伝わりきっていないような。そんな気になることは多い。だいたい「ジョニー・B・グッド」のヒラ歌の1行目とサビ以外の部分をちゃんとした歌詞で歌える日本人ロック・ファンってどのくらいいるんだろう?
まあ、この件について検証し始めたら止まらなくなりそうなので、以下、自粛しますが(笑)。
その点、英米のベテラン・ミュージシャンはちゃーんとわかってる。そんな気分にさせてもらえた頼もしい1枚がこれだ。われらがロニー、ロン・ウッドの新作。ソロ・アルバムとしては2010年の『アイ・フィール・ライク・プレイング』以来、9年ぶりの1枚になる。今年で72歳になったロニーが初心に返り、自らのバック・バンド、ワイルド・ファイヴを従えて憧れの大先輩ロックンロール・ヒーロー、チャック・ベリーにアルバムまるごと捧げた必殺のライヴ盤だ。
昨年、イギリスのウィンボーン・ミンスターにあるティヴォリ・シアターで収録。ノッケの短い導入曲「トリビュート・トゥ・チャック・ベリー」のみ、文字通りチャック・ベリーに捧げたロニー・ウッドのオリジナル曲で、あとは全部チャック・ベリーのレパートリーのカヴァーだ。
このカヴァーの選曲がとにかくかっこいい。もちろん、1957年の「ロック・アンド・ロール・ミュージック」、1958年の「ジョニー・B・グッド」、1959年の「オールモスト・グロウン」と「バック・イン・ザ・USA」など、これぞチャック・ベリーという感じの有名ヒット曲もいくつか入ってはいるけれど。残りがいい。なかなかに渋い。しぶとい。
先出「オールモスト・グロウン」のシングルB面「リトル・クイーニー」とか、「ロック・アンド・ロール・ミュージック」のシングルB面に収められたインスト曲「ブルー・フィーリング」とか。
他も、「アイム・トーキン・アバウト・ユー」は1961年のシングル「リトル・スター」のB面だし、表題曲の「マッド・ラッド」は1960年のアルバム『ロッキン・アット・ザ・ホップス』でお披露目されたあと、シングル「アイ・ガット・トゥ・ファインド・マイ・ベイビー」のB面にも収められたインスト曲だし、「ウィー・ウィー・アワーズ」は1955年の初ヒット・シングル「メイベリーン」のB面に収められたスロー・ブルースだし、「ウォリード・ライフ・ブルース」は1960年のシングル「バイ・バイ・ジョニー」のB面曲だし…。
シングルB面曲ばっかり。
最高。いい案配のマニアックさというか。好感度/共感度たっぷり。あー、ロニーってチャック・ベリーが好きなんだなぁ、と、聞いているだけでうれしくなる仕上がりだ。ロニー&ヒズ・ワイルド・ファイヴの面々に加えて、ピアニストのベン・ウォーターズが参加して躍動的なロックンロール・ピアノを炸裂させている。
さらにイメルダ・メイも「ウィー・ウィー・アワーズ」「オールモスト・グロウン」「ロック・アンド・ロール・ミュージック」の3曲にゲスト・ヴォーカリストとして参加。持ち前のブルージーでファンキーな歌声を聞かせてくれる。画家としても定評のあるロニーだけに、アルバム・ジャケットのアートワークももちろん彼自身。敬愛するチャック・ベリーのお姿を描いている。
ロニーはなんでも今後数年にわたって、自分に影響を与えた音楽的ヒーローたちへのトリビュート・アルバム3部作ってのを発表していくのだとか。その第一弾が本作。このあとは誰を取り上げるのか、その辺も楽しみだ。ちなみに本作、アナログLPも出ていて、それとCDを抱き合わせにしたデラックス・ボックス・セットってのもある。ロニー画伯によるアルバム・アートワークのLPサイズ・アート・カードが封入されているそうです。そっちもいいなぁ…。