Disc Review

Every Single Star / Dori Freeman (Blue Hens Music)

エヴリ・シングル・スター/ドリー・フリーマン

またノスタルジーっぽい話になってしまうのだけれど。このアルバム聞いていたら、1970年代半ば、リンダ・ロンシュタットやエミルー・ハリスの新作アルバムの発表を心待ちにしていたころのような、そんなちょっぴり懐かしい気分になった。

ヴァージニア生まれのアメリカーナ系シンガー・ソングライター、ドリー・フリーマンのサード・アルバム。この人の存在を知ったのは2016年、リチャード&リンダ・トンプソンの息子としても知られるシンガー・ソングライター、テディ・トンプソンがプロデュースを手がけた、地味ながらも心の深いところに響いてくるセルフ・タイトルド・アルバムを聞いたときだ。

なんでも彼女、昔からファンだったトンプソンに、まったく面識などなかったにもかかわらず、フェイスブックで直メして自らの歌声を聞いてもらったのだとか。トンプソンはすぐさま彼女の才能に魅せられ、プロデュースすることを快諾してくれた。2014年の暮れにキックスターターで資金集めを開始。翌年、およそ1万3000ドルが集まり、それをもとにニューヨークで3日間レコーディング。2016年、晴れて本格的デビュー・アルバム『ドリー・フリーマン』が発表になった。

深く豊かなアパラチアン・ルーツを感じさせる歌声で、誰かとつながりを持ちたいのになぜか喪失感にとらわれてしまう、みたいな、そうした心情を淡々と歌い綴る素晴らしい1枚だった。ルーファス・ウェインライトとペギー・リーが好きというプロフィールにも興味をそそられた。その後、2017年に『レターズ・ネヴァー・リード』という、ほんのちょっとだけポップな方向に振ったアルバムを出して。で、今回、3作目となる本盤『エヴリ・シングル・スター』が出た、と。そういう流れ。

ファーストを出したころ、この人、20歳代半ばちょっと前のシングル・マザーだったらしく。そういう環境の下、アパラチアのスモール・タウンで直面していたさまざまパーソナルな体験をフォーク/ブルーグラス的なシンプルなサウンドに乗せて歌っていたのだけれど。セカンドを出したころ、ドラマー/バンジョー奏者のニック・フォークと結婚。そのおかげもあってか、視点がだいぶ変わってきた感じ。これはこれで歓迎すべき変化かも。

前2作同様、テディ・トンプソンがプロデュース。ブルックリンのフィギュア8スタジオに入って、5日間で仕上げられた。今回も手早い。

今の音楽シーンにおいて、もうポップ・カントリーというのは様変わりしてしまって。楽曲的にも音像的にもけっこう暑苦しいというか、分厚めというか…。素朴さ、簡素さ、ナチュラルさ、といったカントリーの美学自体が別物になりつつあるような気がするのだけれど。ドリー・フリーマンがテディ・トンプソンとタッグを組んで作り出す音楽には、今のモダン・カントリーが失ってしまった往年の感触がたっぷり漂っていて。新しさとかはまるでないっちゃないものの、聞いていてなんだかとっても幸せな気分になれます。

1曲、テディ・トンプソンとのデュエットもあり。

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