Disc Review

The Unreleased Recordings / Hank Williams (Time/Life)

ジ・アンリリースト・レコーディングズ/ハンク・ウィリアムス

1950年末から51年にかけて、グランド・オール・オープリーを中継していたことでもおなじみのナッシュヴィルのAM局WSMで『ザ・マザーズ・ベスト・フラワー・ラジオ・ショー』ってのが放送されていて。出演していたのはハンク・ウィリアムス。歌声を披露するのはもちろん、近況を語ったり、スポンサーだったマザーズ・ベスト印の小麦粉の生コマーシャルをやったり。放送時間は月~金の朝の7時15分から30分まで。51年のナッシュヴィルの住民は、毎朝ハンク・シニアの歌声を聞きながら家族で朝ごはん食べてたんだろうなぁ。

とはいえ、当時キャリアのピークにあったハンクが毎回、しかも朝、ラジオ局にいるわけもなく。コンサート・ツアーに出ているときなどは、当然事前に番組用に録音した音源が流されていた。16インチのアセテート盤に残されたそれらの録音はいったんラジオ局で破棄処分にされたりしていたようだが。心ある従業員のおかげでなんとか番組72回分がゴミ箱から救出されて生き延びた、と。

この貴重な放送音源、何度かオフィシャル・リリースが計画されたりしていたのだけれど、遺族との折り合いが今いちつかず、お蔵入り。海賊盤のような形で出回って、熱心なマニアのコレクティング・アイテムとなっていた。というのも、とにかく披露されている曲がすごいのだ。自分の持ち歌はもちろん、他シンガーのヒット曲のカヴァーとか、ハンクがオフィシャルなスタジオ録音を残さなかった楽曲がたんまり。

と、そんな伝説の放送音源が、ついに遺族もOKする形でオフィシャル・リリースされた。ハンクはこの番組のために全部で140曲以上を録音したと言われているのだけれど。その中から54曲をピックアップして、最新技術を駆使しながら音質をきっちり調整して、CD3枚に詰め込んだ本ボックスセット。マスタリングもよくて、これまでの海賊盤音源とは段違い。しゃべりも随所に収められていて臨場感もばっちり。全54曲中、今回ハンク・ウィリアムス・ヴァージョンの初お披露目となったのが28曲。これは偉業です。歴史的偉業。歴史的事件。

ハンクの放送音源というと、『ヘルス・アンド・ハピネス・ショー』がおなじみだけれど。あれよりもバックの演奏がきっちりしているというか。レギュラー・バンドがしっかりバックアップしているというか。充実してます。ハンクの歌声自体も、「アイ・キャント・ヘルプ・イット」をはじめ多くの曲で、オフィシャルなリリース・ヴァージョンよりも深い感情表現が聞けるし、ウィリー・ネルソンでおなじみの「ブルー・アイズ・クライング・イン・ザ・レイン」のように、ハンクの歌声で聞いて初めて楽曲自体の底力を思い知ることができた曲もあるし。震えがくる。鳥肌もの。生きててよかった。

Time/Life によれば、今後3年間、同趣向のリリースを続けるとのことなので、残る90曲ほどもオフィシャルに入手できるようになるかもしれない。まあ、ハンク・ウィリアムスの何たるかを知らない人がこのボックスでいきなりハンク入門っていうのはどうかと思う。初めて聞くビートルズのアルバムが『ライヴ・アット・ザ・BBC』、みたいなものだから。でも、ハンクの素晴らしさを体験ずみ、感知ずみの方には、何にも代え難い宝となるでしょう。

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