Disc Review

Live in Japan 1973 & Live in London 1974 / Beck, Bogert & Appice (Rhino Records)

ライヴ・イン・ジャパン1973&ライヴ・イン・ロンドン1974/ベック・ボガート&アピス

最近はBBAって略語はババアのことなの? やだなぁ。ぼくたちの世代にとってBBAといえば、こっち。ベック・ボガート&アピスです。

BBAの場合、ギター、ベース、ドラムという最小編成ゆえ、ハードなパワー・ロック・トリオ的な側面ばかりが強調されがちだったりもするけれど。この人たち、それに加えてより緻密なフレーズの絡ませ合いというか、めくるめくグルーヴの応酬というか、そういうある種ジャジーでファンキーなダイナミズムにも大いなる醍醐味がある。

まあ、ジェフ・ベックにはご存じの通り、かなりファンキーでソウルフルでジャジーな持ち味もあって。そういった感触が炸裂していた第2期ジェフ・ベック・グループなんか、むちゃくちゃかっこよかったし。

残る二人、ティム・ボガート(ベース)とカーマイン・アピス(ドラム)も同じ。彼らがもともと在籍していたヴァニラ・ファッジは、日本では“アート・ロックの旗手”なるキャッチ・コピーの下、そのシンフォニックなプログレっぽいアレンジばかりが注目を集めがちだったけれど。ロング・アイランドという活動拠点、オルガンをサウンドの中心に据えた楽器編成、カヴァー曲の選び方、アトランティックという所属レーベルなどを含め、明らかにブルー・アイド・ソウルの雄、ザ・ラスカルズに触発されたバンドのひとつで。ベックもそんなバンドを支えていたリズム・セクションとしてのボガート&アピスに惚れ込んだのだろうし。

というわけで、そんなBBAの味を堪能できるライヴ4枚組。CDもLPも4枚組。米ライノ・レコードが編んでくれました! 

まあ、ジェフ・ベックにしてみれば、本当はちゃんとヴォーカリストも入れたかったし、キーボードのマックス・ミドルトンも加えたかったし、つまり第2期ジェフ・ベック・グループのリズム・セクションだけ代えたかったというのが本音だったとも言われていて。でも、その計画がうまくいかず結果的にトリオ編成になってしまったため、彼らがオリジナル活動期に残した唯一のスタジオ盤『ベック・ボガート&アピス』ではベックが複数のギターをダビングしたり、コーラスもたくさん重ねたり、曲によってトリオの限界を超えた音像を構築しようとしていた局面もあったわけだけれど。

それができないライヴでの一発アンサンブルのほうが、実はBBAというスーパー・トリオの可能性をぐっと広げているようで。こっちのほうが断然かっこいいとぼくは思う。

今回の4枚組、まずディスク1とディスク2が『ライヴ・イン・ジャパン1973』。ベック自身は、ちょっと雑かも…とか、もろもろの理由であまり出したくなかったらしいけれど、日本のファンのために日本独占発売という形で出すことが許された、われわれ日本人リスナーにはおなじみの1973年5月、大阪厚生年金会館でのライヴ音源だ。40周年記念盤では実際のセットリスト通りに曲順が修正されたりもしていたけれど、今回はもともと2枚組LPでリリースされたときのオリジナル仕様。

唯一のスタジオ・アルバムの収録曲群に加えて、ヤードバーズ時代からのレパートリーである「ジェフズ・ブギー」や、第1期ジェフ・ベック・グループの「モーニング・デュー」、第2期の「ゴーイング・ダウン」、さらには第1期の「プリンス」とボガート&アピスがヴァニラ・ファッジ時代にカヴァーしていた「ショットガン」のメドレーなどが披露されている。

で、ディスク3と4が『ライヴ・イン・ロンドン1974』。こちらは日本公演の8カ月後の1974年1月、英ロンドンのレインボウ・シアターでのパフォーマンスを収めたものだ。アメリカのFMで放送された音源がブート化されていた、あれ。一部音源がベックのボックセット『ベッコロジー』に収められて世に出ていたけれど、全貌が公にまとめられたのは今回が初となる。

こちらでは「サティスファイド」「ラフィン・レディ」「ジズ・ウィズ」「ソリッド・リフター」「プレイン」「(ゲット・レディ)ユア・ラヴメイカーズ・カミング・ホーム」といった、ちょうどレコーディング中だった幻のセカンド・スタジオ・アルバムの収録予定曲がたっぷり含まれているのが目玉か。ベックがBBA解散後に突入するフュージョン・モードへの予感がすでに溢れ出していて、盛り上がる。

もちろんこちらでも『ベッコロジー』でお披露目ずみの「ブルース・デラックス」みたいな古いレパートリーを取り上げていて、ベックの鉄壁のブルース・ロック魂を堪能することができる。ソロに突入したところでトーキング・モジュレーターを使って「ユー・シュック・ミー」をぶちこんできたりして、やばい。改めてかっこよさを再確認。

前述した通り、ベック自身はBBAのライヴを出すことに関して消極的だったようだけど、いやいや、彼が言うところの“雑さ”も含めて、その奔放なジャム感は痛快この上ない。3人しかいないのに、この音世界。すごい。ハードにパワー・コードをぶちかますのではなく、ギター、ベース、ドラム、それぞれがけっこう大胆かつ繊細なラインなりグルーヴなりを繰り出し、それらを巧みに折り重ねることで複雑なアンサンブルを見事に実現してみせる。3人ともとんでもなくうまいプレイヤーなんだなという事実を今さらながらに思い知りました。ボガート&アピスのヴォーカル〜コーラスもごきげん。アンサンブルをより豊かなものにしている。

このままBBAとしてのバンド活動が続いていたらどんな音像をぼくたちに投げかけてくれていたのか、妄想が膨らむばかりだ。

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