オークランド・ゾーン/タワー・オヴ・パワー
1980年代の不遇時代を超えて、90年代に入ってからはそこそこコンスタントに新作をリリースしてきたタワー・オヴ・パワーだけれど。今回の新作は盛り上がりもひとしお。なんたって、前作のライヴ盤で戻ってきたフランシス・“ロッコ”・プレスティア&デイヴィッド・ガリバルディの最強リズム・セクションが復活した久々のスタジオ・アルバムなのだから。
スタジオ盤まるごとロッコ&ガリバルディというのは1975年の『イン・ザ・スロット』以来かな。その後、二人ともバンドを出たり入ったり、それなりにメンバーとして在籍してはいた。数年前、村田陽一のアルバムのバック・ミュージシャンとしてコンビ復活とか、そういうのもあった。けど、タワー・オヴ・パワー内ではなぜか常にすれ違い。まあ、例の屈強のホーン・セクションさえいれば、おー、タワー・オヴ・パワーじゃんというサウンドはそこそこできあがるわけだが。でも、やっぱりガリバルディの強力にタイトなドラミングと、ロッコのぶくぶくうねる16ビートのベースが支えていてこそのタワー・オヴ・パワー。特にロッコに関しては大病を患って、一時はもうダメかとさえ噂されていたし。本当にうれしいリズム・セクション復活劇。それだけでワクワクだ。
それはタワー・オヴ・パワー自体にとってもそうだったようで、往年の代表曲のサワリをふんだんに盛り込んだ「バック・イン・ザ・デイ」なんて曲も入っていたりして。古くからのファンにはたまらない新作に仕上がっている。もちろん、まだタワー・オヴ・パワー初心者という方には、まず何も言わず彼らが70年代に残した鉄壁の傑作群(73年の『Tower of Power』、74年の『Back to Oakland』、75年の『Urban Renewal』と『In the Slot』)を強く強くおすすめしますが、その辺はすでに体験済みの中級以上のファンにはけっこう満足のいく内容のはず。
短いテーマ曲のフェイドアウト、フェイドインでアルバム全体をはさむ構成も『バック・トゥ・オークランド』を思い出させてくれるし、楽曲自体もこれぞタワー・オヴ・パワーという感じの様々なパターンの曲想がほぼ全部詰め込まれているし。あー、楽しい。短絡的な音楽への接し方しかできない自称辛口音楽ファンとかからは“後ろ向きだ”と評されるのかなぁ。でも、ワン・パターンで何が悪い。新しくなくて何が悪い。タワー・オヴ・パワーがトランスにでも挑戦すれば満足なのか。くだらない美学だ。切れ味が少し悪くなろうが、楽曲自体のクオリティがちょっと落ちようが、ここで展開されるオークランド・ファンクは間違いなくタワー・オヴ・パワーだけの財産。この素晴らしいサウンド・スタイルを作り上げてくれたという事実だけで、ぼくたちは彼らを一生賛美し続けるべきだ。そして、何度も書いたことながら、彼らが繰り出す唯一無比のグルーヴが今なおぼくたちを熱く圧倒するのであれば、タワー・オヴ・パワーの音楽はまぎれもなく現役なのだ。
実際、調べてみたらタワー・オヴ・パワーのオリジナル・アルバムってほぼ全部、廃盤になっていないんだね。ワーナー在籍時の黄金時代の諸作はもちろん、米コロムビア時代も、その後のレーベル流浪時代のものも。ライノ・ハンドメイドからは80年代の未発表音源までCD化されているし。立派だ。そういや、ライヴのブートもそれなりに出てるし。てゆーか、今のうちかも。ワーナー時代のオリジナル・アルバムとかは、ライノから出たリマスター・ベストに比べると音も悪くてちょっと悲しいものの、出ているだけでもめっけもん。歯抜け状態の方は今のうちにオリジナル・アルバムを全部揃えちゃうのも悪くない。いつなくなるかわからない。ロッコ&ガリバルディ復活記念ってことで、どうでしょう。これで、ついでにオルガンにチェスター・トンプソンが復帰しないかなぁ……。