Live At The Roxy Theatre / Brian Wilson (BriMel)
基本的にはインターネット上でのみ販売するってことでリリースされた最新2枚組ライヴ・アルバム。なのに、お金だけ引き落とされていまだに現物が届いていない人もいまだ多い。ぼくも実は2回注文して、そのうちひとつだけしか届いていない。ひどいね。日本では店頭で扱っているCD屋さんもあるようだから、これから買おうと思っている人はそっちで入手したほうが確実かも。
と、そうしたゴタゴタを別にすれば、やっぱりこれはうれしいうれしい2枚組だ。内容としては、去年の来日公演も含むソロ・ツアーと、年末のブリッジ・スクール・ベネフィットでのアンプラグド・セットを合体させたようなもので。要するに、ワンダーミンツやジェフリー・フォスケットをバックに従えた去年のブライアン・ウィルソン・バンドの総決算盤。今年の4月7日、8日にロサンゼルスのロキシーで録音されたものだ。アンコールも含めて全34曲を演奏したうち、26曲を収録。当日の生録を聞いた限りでは、まあ、一部ヴォーカルの差し替えなども行なわれているようだけれど、これはライヴ盤の常。OKでしょう。
去年は演奏されなかった「ティル・アイ・ダイ」とか、ブリッジ・スクール・ベネフィットで初演された「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」、ブライアンが歌詞付きで初めて歌った「ジス・イズント・ラヴ」、83年ごろのオリジナル曲「ファースト・タイム」、ベアネイキッド・レディーズの「ブライアン・ウィルソン」のアカペラ・カヴァーなど、日本公演では聞けなかった曲も含まれているが、そうは言っても、これはやはり去年ブライアンのソロ・コンサートを体験した人にこそ大きな意味のあるライヴ盤なんだろうなと思う。あの夜、会場に渦巻いていた言葉では言い表せない空気感を体験した者が、その思い出をにまにましながらより強固なものにするために味わうべきアルバム。
それを前提に言えば、ここには60年代から90年代まで、4つのディケイドにわたってブライアンが作り上げたメロディが順不同で詰め込まれているわけで。それらが時代を超えてすべて同じ感触をたたえていたのだという素晴らしい事実を、同じバンドが同じ日に奏でた音像の中で再確認できるのが、本盤最大の魅力かも。
Wheatus / Wheatus (Columbia)
ロング・アイランド出身のブレンダン・B・ブラウン君というシンガー・ソングライターを中心に結成された4人組のデビュー盤。映画『Loser』のサントラに収められ、全米モダン・ロック・チャートでもヒットを記録している「ティーンエイジ・ダートバッグ」がフィーチャーされている。
大ざっぱな印象で言うと、ジェリーフィッシュとかウィーザーとか、ちょっと古い例としてはユートピアとか、その辺が好きな人ならきっと楽しめそうな1枚。ぼくは楽しめました。ブレンダン君、いい曲書きます。アルバム半分くらいは(笑)。
アルバムのラストに「ウォナビー・ギャングスター」って曲が入っているのだけれど、そんな感じ。ええとこの子なんだと思うけれど、そういう子ならではの屈折にまみれた今様ポップ・ロックって感じかな。
This Will Be Laughing Week / Ultimate Fakebook (Epic/550)
感触としてはグリーン・デイとか、あの辺に近い3人組パンク・ポップ・バンド。ただ、メロディ感覚にシックスティーズっぽい胸キュン系のものがかなり入っていて。ぼくのようなお古いアメリカン・ポップス・ファンにも心地よく届いてくる。そんな彼らの、1998年のデビュー盤に続くセカンドがようやく登場した。
なんでも、この人たち年間140本くらいのツアーをしているらしくて。そのせいか、3人組ながら、バンド一丸となった音圧はなかなかのもの。そんなギター・サウンドに乗って、この種のバンドにありがちな3コード/4コードには収まりきらない豊かなメロディを聞かせている。
Water To Drink / Victoria Williams (Atlantic)
途中、オリジナル・ハーモニー・クリーク・ディッパーズとしてアルバムをリリースしたり、グラム・パーソンズのトリビュート・アルバムに参加したりはしていたものの、ソロとしては前作からはもう2年半ぶりになるんだね。多発性硬化症という難病と闘いながら、しかしひょうひょうと独自の音楽活動を続ける女性シンガー・ソングライター、ヴィクトリア・ウィリアムスの新作だ。
トータルなメッセージ色が強かった前作に対して、今回は1曲ごとに様々なサウンド作りを取り入れたり、面白いカヴァーを取り上げたり……かなりポップな仕上がりになっている。オリジナル曲は相変わらず素晴らしいのだけれど、やはり目立つのはカヴァーかも。アントニオ・カルロス・ジョビンによるおなじみのアルバム・タイトル曲のほか、ヴァン・ダイク・パークス編曲によるストリングスをバックに歌った2曲のスタンダード曲など、ある意味ではシンガーとしてのヴィクトリア・ウィリアムスを強調した1枚なのかも。独特の、ぶひゃ~っとした歌声は健在です。いいです。
Not For Sale / Tim Carroll
これね。ちゃんと買ったものなんだよ。普通に。オンラインCDショップで。だけど、レーベル名とか、何もクレジットなし。ジャケットはカラー・コピー。しかもCD-R。ブートだよ、まるで。
でも、それも仕方なし。実はこれ、98年にサイア・レコードから『ロックンロール・バンド』なるタイトルのもとでリリースされる予定になっていたものの、リリース直前になってお蔵入りしてしまった曰く付きの1枚なのだ。で、アッタマ来たティムさんが、内容はそのまま、アルバム・タイトルだけこの皮肉な題名に変更して自主リリースしたのが本盤ってわけ。
なんでサイアはこれをリジェクトするかな、というような、かっこいいサザン・ロックンロール・アルバムだ。カントリー味とR&B味とスワンプ味が微妙に交錯するいい曲ぞろい。ちなみに、プロデューサーはブライアン・ウィルソンとの仕事でもおなじみのアンディ・ペイリーです。
American Dream / Chris DiCroce (Flyboy)
フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。またブライアン・ウィルソンの話で申し訳ないけど(笑)、ブライアンを自分のTVショーのゲストに迎えたことでもおなじみ(誰に?)の女性カントリー・シンガー、ディーナ・カーターの旦那さんだ。ぼくはこの人のこと知らなくて、本盤が初めて買った1枚なのだけれど、これがセカンドだとか。いいです。けっこう惚れました。
ちょっとだけスプーキーなバック演奏をともなった曲がいくつかあって、その辺だけは、なんとなく現代っぽい匂いもしなくはないのだけれど、他は70年代に録音されたんじゃないかと思ってしまうような真っ向からのシンガー・ソングライター・サウンド。曲もいいです。佳きころのジャクソン・ブラウンとかジョン・プラインとかにも通じる味。アサイラム初期のトム・ウェイツを思わせる「セイント・トーマス・ムーア」って曲に泣きました。
けっこう長い隠しトラック入り。
Merriment / Vic Chesnutt & Mr. and Mrs. Keneipp (Backburner)
こことかここでもピック・オブ・ザ・ウィークに取り上げてたことがあるヴィック・チェスナットの新作。今回はジャック・ローガン人脈のケリー&ニッキー・ケニープとの共演アルバムだ。ケニープさんたちが曲を書き、チェスナットさんが詞を書いて歌った、と。そういうツクリ。
とはいえ、これはもう間違いなくヴィック・チェスナットのアルバムって感じのダークで内省的なムードが横溢している。ピアノ、ギター、ベース、コーラス…といったシンプルなバッキングのもと、淡々と綴られた1枚だ。ミルス・ブラザーズみたいな口トランペットを交えてわびしく展開する「フェザー」って曲にはジャック・ローガンもベースで参加。個人的にもっとも気に入った曲です。
これも超インディーズって感じのアルバムで。ケース裏の曲目クレジットが間違っているんだけど、ポストイットが表ジャケットにぺたっと貼ってあって、その間違いを知らせるメッセージが手書きされてました(笑)。
Happy To Be Here / Todd Snider (Oh Boy)
MCAナッシュヴィルからの2枚を経て、いよいよMCAのポップ部門から一般向けのサード・アルバムをリリースしたものの、結局今いちのセールスしか上げられず、ついにマイナー系のオー・ボーイ・レコードへと本拠を移しての新作。
マイナー落ちとはいえ、これ、かっこいいです。渋いけど。これまでとは一転して、アコースティック・ギターを中心に据えた音作り。しかし、ソウルフルなんだよなぁ。ぐっと抑えた感じのホーン・セクション(ウェイン・ジャクソン&ジム・ホウク!)やハモンド・オルガンなどもバックに配し、ほとんどの曲をミディアム~スロウでキメている。メジャー・レーベルを離れたことで、逆にやりたいことを全面に押し立てたアルバムを作れたということか。
キム・リッチー、タミー・ロジャース、パット・ブキャナン、ジョーイ・スパンピナートなども客演。プロデュースはスティーヴ・アールの相方でもあるレイ・ケネディだ。
This / Will Kimbrough (Waxy Silver)
と、そんなトッド・スナイダーの新作を含む諸作をはじめ、キム・リッチー、ギャリソン・スター、ジョシュ・ラウズ、エイミー・リグビー、ジェス・クラインらのバックアップ・ギタリストとしてもおなじみ、ウィル&ザ・ブッシュメン/ザ・ビスキッツのウィル・キンブローの初ソロ・アルバム。
ヴォーカルは少々弱いのだけれど、繊細なメロディ・センスを活かしたパワー・ポップものを中心に、時にジョン・レノンっぽくなったり、トム・ペティっぽくなったり、ニール・ヤングっぽくなったり、スティーヴ・アールっぽくなったりしながら展開する。
Draw Them Near / Jess Klein (Slow River)
for What's In? Magazine (Revised)
ボストンを本拠とする女性シンガー・ソングライター。フジ・ロック・フェスにも出演したそうなので、生の歌声に接した読者もいることだろう。今年のサウス・バイ・サウスウェストでのパフォーマンスも大いに評判を呼んだ彼女だが、それに先立ち、去年の暮れにナッシュヴィルへと出向いて、チャック・E・ワイスやジョシュ・ラウズを手がけたジョージ・ハワードのプロデュースのもとで制作したメジャー・デビュー・アルバムが本盤だ。
基本的にはナチュラルなアコースティック・サウンドで彼女独特の伸びやかな曲作りのセンスをバックアップした仕上がりになっているが、演奏陣にマーシャル・クレンショー、インペリアル・ドラッグ、スワン・ダイヴらのプロデュース/エンジニアリングを手がけたブラッド・ジョーンズ(ベース)や、前述ウィル&ザ・ブッシュメンのウィル・キンブロウ(ギター)ら、ナッシュヴィルのパワー・ポップ勢が加わっているのがポイントかも。そのせいか、ホーン・セクションやオルガンがファンキーなリフを連発するような曲も、まったく無理なくこなしている。アンクル・テュペロ~ウィルコのケン・クーマー(ドラム)も的確なグルーヴを提供。鉄壁のメジャー・デビュー盤が完成した。少なからぬ影響を受けたというスティーヴィー・ニックスにも通じる、ちょっぴりおてんばっぽい歌声も胸にくる。今後が楽しみな新進シンガー・ソングライターだ。
Perfect Day / Chris Whitley (Valley Entertainment)
この人も、もともとはメジャーのソニー/コロムビアで活躍。その後、マイナー系のレーベルに移籍し、着実に活動を続けている人だ。
テキサス出身のシンガー・ソングライターだが、本盤はカヴァー・アルバム。ボブ・ディラン、ハウリン・ウルフ、ヴィクター・ヤング、ジミ・ヘン、マディ・ウォーターズ、ルー・リード、タジ・マハール、ドアーズ、ウィリー・ディクソン、ロバート・ジョンソン…と、いくつかのブルース・クラシックスを交えながら、様々なスタイルの曲を取り上げている。演奏のほうは、生ギターを弾くクリスに加えて、“メデスキー、マーティン&ウッド”のビリー・マーティン(ドラム)とクリス・ウッド(生ベース)というトリオ編成。シンプルだけど奥行きがある。かっちょええインタープレイを聞かせてくれてます。
Kings Of The Catnap / The LeRoi Brothers (Rounder)
80年代からオースティンを拠点に活躍するごきげんなテキサス・トワンギン・ロックンロール・バンドの新作だ。今回はバック・オウエンス、ジミー・ヴォーン、ジム・ロウダーデイル、ガース・ハドソンらをゲストに、もう説明不用のロックンロール/ロカビリー/ホンキー・トンク・カントリーを聞かせている。お見事。
以上。
Songs From The Grass String Ranch / The Kentucky Headhunters (Koch)
レココレ編集長のテラ坊も大好き、ケンタッキー・ヘッドハンターズの5枚目。相変わらず豪快なサザン・カントリー・ロックの嵐で。これまでのアルバムが好きだった人なら、嫌いになる理由なし。とはいえ、新リスナーを獲得できるような新味もなし。まあ、それもこれもすべて自ら望んでのことでしょう。これもまた見上げた心意気だ。
デイヴィッド・エセックスの「ロック・オン」のカヴァーを、むちゃくちゃカントリー・ロッキンにこなしています。
Everything You Thought Was Right Was Wrong Today / Slobberbone (New West)
豪放なルーツ・ロックをぶちかますスロッバーボーンの3枚目だ。セカンドを出してから丸3年。その間、各地をツアーして回って、本盤に収められているような新曲もがんがん演奏しまくって、ついにその成果をアルバムへと結実させた、と。そんな感じらしい。
というわけで、これまで以上にタイトなグルーヴを聞かせる1枚。マンドリン、バンジョー、アコーディオン、ホーン・セクションなどを交えつつ、砂埃まみれのロード・ムーヴィー的な世界が展開する。
The Ecleftic: 2 Sides II A Book / Wyclef Jean (Sony)
for Music Magazine
ワイクレフ・ジョンも苦労してるね。冒頭、フージーズの新作を待望するレコード会社スタッフとの苛立たしい電話でのやりとりが飛び出して。次にはすかさずローリンとプラズウェルに「もしこれを聞いていたら電話をくれ…」とメッセージを投げかける曲が登場。複雑だ。ローリンの性格に関する悪い噂も飛び交う昨今。バンド仲間のワイクレフさえまじに連絡が取れないのか。フージーズのアルバムが作れないから仕方なくソロを作ったんだ、とワイクレフ自身が発言したとかしないとか。本当のところはわからないものの、とりあえずフージーズの新作はおあずけのままリリースされた3年ぶりのセカンド・ソロ・アルバムだ。スモール・ワールド、プロダクトG&B、メアリー・J・ブライジ、ユッスー・ンドゥール、ホイットニー・ヒューストン、さらにはケニー・ロジャースなど、近年のプロデュース活動の中で得た人脈を駆使した多彩なゲストを招き、数々のアイデアに満ちたスキット/インタールードを織り込みながらレゲエ周辺のビートを基調にぐいぐいと推進していく構成。まあ、前作同様といえばそうなのだが。しかしアルバム全体の手触りは前作以上にしっかりとヒップホップ。
WWFのチャンピオン、ザ・ロックを迎え、彼のおなじみのスローガン“It doesn't matter”をテーマに、ファンキーかつキャッチーに組み立てられたナンバーから、メアリー・J・ブライジとともに失恋の痛手をハードに歌い上げるバラード、そしてユッスー・ンドゥールを招いて、去年ブロンクスでいきなりいわれなく白人警官に射殺されたギニアからの移民、アマドゥ・ディアロを切々と追悼するスロー・レゲエまで。この柔軟な振り幅はやはりワイクレフならでは。生ギターを掻き鳴らしつつウッドストック99の真の姿を暴露するフォーキー&ファンキーな作品も楽しかった。曲後半ではスライ、ジミヘン、サンタナになりきろうとしてなりきれていなかったり。ツアー・バスを止めた白人警官に「お前みたいなやつにロックができるか」と言われ、ピンク・フロイドのギター・リフを弾きこなし、そのままご存じ「ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア」に突入する曲もある。
歌詞的には、他にも昨今の若きギャングスタたちに警鐘を投げかけるものがあったり、求心力を失っているヒップホップ・シーンへの怒りを炸裂させるものがあったり、やっぱりワイクレフ、けっこういらついてるかも。女性シンガーあるいは女性ラッパーを迎えた曲を聞いていると、どうしてもフージーズの新作をこちらとしても幻視してしまって。なんだかワイクレフに申し訳ない気分になるのだけれど。もしかするとワイクレフ自身も同じ気分なのかな。うーむ。