Disc Review

I See You Live On Love Street: Music From Laurel Canyon 1967-1975 / Various Artists (Grapefruit Records)

アイ・シー・ユー・リヴ・オン・ラヴ・ストリート:ミュージック・フロム・ローレル・キャニオン1967-1975/ヴァリアス・アーティスツ

ママス&パパスが1967年にリリースした「朝日をもとめて(Twelve-Thirty)」ってシングルがある。作者はグループの中心メンバー、ジョン・フィリップス。もともとニューヨークで活動していたフィリップスが、1964年、ママス&パパスを結成して拠点をロサンゼルスに移した時期に書かれたもので。“Young Girls Are Coming to the Canyon”という副題が付けられていた。

ご存じの通り、この女の子が集まる“キャニオン”というのはロサンゼルス市街を見下ろす位置にあるローレル・キャニオンのこと。当時、ミュージシャンや俳優など多くのアーティストが集まる“ヒップ”な地区としておなじみだった。暗く汚いニューヨークに比べてローレル・キャニオンがどれほど明るく、清潔で、心地よい場所かが「朝日をもとめて」には綴られていた。

1960年代後半は米ポップ・ミュージックの中心地が東海岸から西海岸へと移った時期。当時の西海岸では既成の古くさい秩序や概念を打ち破るボヘミアン的存在として“ヒッピー”たちが台頭しつつあって。ボヘミアン的な文学者、ラジカルな政治家、思想家、詩人、作家、画家、演劇家、学生、そしてミュージシャンといった“ヒップな連中”がサンフランシスコのハイト・アシュベリー地区とか、ロサンゼルス郊外のローレル・キャニオンなどに新たな拠点を作り、多彩なカウンター・カルチャー、ドラッグ・カルチャーなどと結びつきつつ価値観のドラスティックな転換を声高に主張し始めていた。

この動きが1967年にピークを迎えて、いわゆるフラワー・ムーヴメントというか、“サマー・オヴ・ラヴ”、愛の夏のムーヴメントへと結びついていくわけだけれど。

そんな時期、ローレル・キャニオンから発信された多彩な音楽たちを、おなじみチェリー・レッド傘下のグレイフルーツ・レコードがコンパイルした3枚組アンソロジーが本作『アイ・シー・ユー・リヴ・オン・ラヴ・ストリート:ミュージック・フロム・ローレル・キャニオン1967-1975』だ。一昨年、2022年に同じくグレイプフルーツが編纂した『英雄と悪漢~LAサウンドの光と陰、ビーチ・ボーイズからビーフハートまで(Heroes and Villains: The Sound of Los Angeles 1965-68)』の続編という位置づけみたい。

グレイプフルーツものはストリーミングがあったとしても曲数が思いきり曲数が削られていることが多いのだけれど。今回はストリーミングもなし。今のところ見かけていない。でも、とにかくこの3枚組、収録曲を見ないと始まらない感じなので、チェリー・レッド・レコードのサイトに掲載されているリリース告知記事をぜひチェックしていただきたいです。Apple MusicとかYouTubeとかで全曲を各オリジナル・アルバムからリストアップした涙ぐましいプレイリスト作っている方とかも見かけたので、試聴してみたい方はそういうのを利用するのもいいかも。

ディスク1が、前述「朝日をもとめて」の副題“Young Girls Are Coming To The Canyon”をタイトルに冠した1967〜1968年の音源集。アソシエーション、ラヴ、バッファロー・スプリングフィールド、バーズ、モンキーズといったあたりから、リトル・フィート以前にローウェル・ジョージが結成していたファクトリー、リンダ・ロンシュタットをフィーチャーしたストーン・ポニーズ、ポール・ウィリアムスが在籍していたホーリー・マッケレル、ロジャー・ニコルス・トリオ、ミレニアムなどにも目配りしたナイスな選曲です。

ディスク2が“Going Home To California”と題された1969〜1971年の音源集。スティーヴン・スティルス、ポコ、ティム・バックリー、フライング・ブリトー・ブラザーズ、スリー・ドッグ・ナイト、タートルズ、ストーン・キャニオン・バンド、フランク・ザッパなどがずらり。

で、ディスク3が“Postcards From Hollywood”。1971〜1975年の音源集だ。J.D.サウザー、リトル・フィート、リンダ・ロンシュタット、ジュディ・シル、ハリー・ニルソン、カーリー・サイモン、クレイジー・ホース、ジョー・ママ、ロギンス&メッシーナ、グラム・パーソンズ、レオン・ラッセル、ダン・フォーゲルバーグ、ネッド・ドヒニー、ヴァレリー・カーターとジョン・リンドのハウディ・ムーンなどを経て、ラストはフリートウッド・マックへ。

全72曲、全長4時間弱。カラフルな写真やイラストと詳細な曲目解説を掲載した48ページのブックレット付き。これ、ゴールデン・ウィークに向けて重宝しそうな小箱かも。国内流通盤も出ているようだけど。『アイ・シー・ユー・“ライヴ”・オン…』って思いきり誤ったカタカナ表記にちょっと脱力しました(笑)。ドアーズ、聞いたことないのかな。

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