Disc Review

Horses (50th Anniversary Edition) / Patti Smith (Arista)

ホーセス〜50周年記念エディション/パティ・スミス

正直、最初はよくわからなくて。「グローリア」って、ゼムの「グローリア」? でも、歌詞、全然違うじゃん…みたいな。それが出会い頭の印象。それゆえ、しばらくは引き気味に接していた1枚でした。

パティ・スミスの1975年作品『ホーセス』。でも、アルバム冒頭を飾っていた、その「グローリア」の入口。静謐なピアノ演奏に導かれてパティ・スミスが“Jesus died for somebody’s sins, but not mine”と低く歌い出す瞬間の吸引力というか。ただならぬ気配というか。そういうものだけは最初から確実に伝わってきて。

後になって、これが自作の詩「オース」とゼムの「グローリア」を腕尽くで合体させたものだってこともだんだんわかってきて。冒頭のただならぬ一節も、その後に歌われる“My sins my own / They belong to me”という歌詞も、これはけっして神への安易な挑発などではなく、ありがちな救済を拒む“個”としての覚醒を宣告するものなのだなと思えてきて。

その上で何度も聞き返すうち、じわじわと、ずぶずぶと、パンク前夜のニューヨークの息吹きのようなものにハマってしまったのでありました。クリス・ケナーの「ダンス天国」の決めフレーズをふんだんに盛り込みながら構成された「ランド」も、「グローリア」ともども、スリリングなリメイクの切り口だった。個人的にあんまり長い曲とか好きじゃないのだけれど、ごき「ランド」とか、あと「バードランド」とか、圧倒的なロック版ポエトリー・リーディングって感じで。しびれた。

あの衝撃から半世紀。てことで、50周年記念盤、出ました。もちろん名盤だけに、過去何度も充実した再発がなされてきていて。1996年にはオリジナル・アルバム全8曲に、シングル「グローリア」のB面曲、ザ・フーの「マイ・ジェネレーション」をカヴァーしたライヴ音源がボーナス追加されリマスター盤が出たし。2005年、発売30周年の際には、そのボーナス入りのリマスター盤と、2005年にロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行われた本作の全曲演奏ライヴ盤を抱き合わせた2枚組レガシー・エディションも出たし。

でもって、今回。またまたすごい。今回も2枚組でのリリースで。CD1がボーナスなしのオリジナル・アルバム全8曲の最新リマスター盤。で、CD2がレア音源集。2002年に出たコンピレーション『ランド(1975〜2002)』にも興味深い未発表音源がふんだんに盛り込まれていたけれど、そことのダブりは「レドンド・ビーチ」だけ。

その「レドンド・ビーチ」を含め、メジャー・デビュー前にRCAレコードの下で録音されたいわゆる“RCAデモ”からの音源が4曲。「グローリア」や、後に『イースター』に収録されることになる「ウィ・スリー」のデモもうれしいが、マーヴェレッツの名曲をカヴァーした「ザ・ハンター・ゲッツ・キャプチャード・バイ・ザ・ゲーム」がいい。作者スモーキー・ロビンソンが描いた恋のゲームとまるで違う物語が浮き上がってきていて。パティさんによるものなのか、レニー・ケイによるものなのか、わからないけど、ほんとカヴァーというかリメイクというか、その選曲センスが泣ける。

その他、『ホーセス』収録曲の別ヴァージョンやアウトテイクが4曲、次作、バンド名義による『ラジオ・エチオピア』収録曲の別ヴァージョンが1曲。ただし、オリジナル・アルバム未収録のシングルB面曲「マイ・ジェネレーション」は今回入っていないので、30周年盤も処分できないっすね。

ちなみに、これ、11月に出るというパティさんの新回顧録『Bread of Angels』に合わせたリリースだとか。パティ・スミスの場合はアルバム・リリースと本の出版とが同列に存在するというか、そういう感じだから、これも読まないと。楽しみ。

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