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Nothing But Pop File, vol.118: Hoagy on My Mind - Hoagy Carmichael Songbook

NBPファイル vol.118:ホーギー・カーマイケル作品集

1960年の今日、11月14日。レイ・チャールズの「わが心のジョージア(Georgia On My Mind)」が全米チャート1位に輝いたのだとか。

そういえば3年くらい前、『レコード・コレクターズ』誌が創刊40周年を迎えたとき、同誌に寄せた原稿で、このレイ・チャールズの「わが心のジョージア」について書いたことがあって。一部再録させていただきますが——

ぼくがすっかりレコード音楽という世界に深くハマりこんでしまったのは、レイ・チャールズの1枚のシングル盤がきっかけだった。それは当時キング・レコードから出ていた「愛さずにいられない/わが心のジョージア」という超お手軽な、コレクション対象としては何の価値もなさそうなベスト・カップリング・シングル。1970年ごろのことだ。ぼくがまだ中学生だったとき。レイ・チャールズが来日して、その模様がテレビ中継された。まだ何もわかっていない子供だったので、どんな曲をどう演奏していたか、見た直後ですらまったく覚えていなかったのだけれど。「ホワッド・アイ・セイ」って曲だけは調子よくて楽しくて。大いに気に入った。タイトルも覚えた。盤がほしくなり、小遣い握りしめて地元の小さなレコード屋へ。けど、さすがに昔のヒット曲だし。小さな店の品揃えに期待できるはずもなく。「ホワッド・アイ・セイ」はなかった。が、その代わり、エサ箱には同じレイ・チャールズの「愛さずにいられない/わが心のジョージア」というベスト・カップリング・シングルが。同じ人の曲だし、きっとこれも調子よくて楽しい曲なんだろうなと勝手に決めつけて購入。わくわく帰宅して盤をかけてみたら…。

 げ、バラードじゃん。

 ちょっとたじろいだ。落ち着きのないアホな子供だったこともあり、バラードかぁ、全然思ったのと違うじゃねーかよ、と少し落胆したものだ。が、少ない小遣いをぶちこんだものだから。もう好きになるまで聞くしかない。何度も何度も、A面A面A面B面B面A面A面…みたいな勢いで繰り返し聞き続けた。そうこうするうちに、アホな子の心にも楽曲の魅力が徐々に染み込んできて。好きになった。特にB面に収められていた「…ジョージア」。あの曲を何度も何度も繰り返し聞いていたある夜、2度目のサビ直後、ヒラ歌に戻る前にレイ・チャールズがファルセットに移行して“♪ウォウ・ウォーオオ…”とフェイクをかます瞬間、背中に電流が走った。突如、見えなかったものが突然見えたような、目の前が一気に広がったような、いけない快感のような、でもとてつもなく気持ちいいような、ファンキーなような、スウィートなような、神聖なような…生涯たった一度とも言うべき感動的雷鳴に身体をぶち抜かれた。

 あわててレコード・プレーヤーの針を戻してみた。が、もう同じ感動はやってこない。雷鳴は鳴らない。ただ、とにかく衝撃的な体験だったもんで。普段、三日坊主で何ひとつ書いていなかった日記帳に、しっかりそのことだけは記した。それが音楽についてぼくが何か文章化した最初。今やっている仕事の原点か。あれから現在まで何回「わが心のジョージア」を聞いてきたかわからない。にもかかわらず、あのときと同じ感触が戻ってきたことはない。でも、あの感覚だけは忘れられない。しっかり覚えている。あの衝撃をなんとかしてもう一度味わいたいがため、今もぼくはひたすらレコード/CDに金をつぎこみ、一日のほとんどの時間、音楽を聞きながら過ごしているのかもしれない。

ほんと恩人のようでもあり、同時に超罪作りな1枚でもあったわけですが。

ご存じのようにこの曲、もともとは1930年、米国を代表する名作曲家のひとり、ホーギー・カーマイケル(1899年、インディアナ州ブルーミントン生まれ。1981年没)が発表した作品で。1931年のフランク・トラムバウアー楽団(全米チャート10位)、1932年のミルドレッド・ベイリー(19位)、1941年のジーン・クルーパー楽団(17位)など様々なヒット・ヴァージョンがあるのだけれど、やはり決定版は前述の通り1960年の今日、11月14日付で全米1位に輝いたレイ・チャールズのヴァージョン。

もともとこの曲の歌詞で歌われている“ジョージア”というのはホーギーさんの妹であるジョージア・カーマイケルのことだったらしく。ある種、なんというか、こう、ほのぼのした曲だったものの。それがレイ・チャールズの雄大な歌心を得て、楽曲自体まったく別の、アメリカ南部への大いなる郷愁をたたえた必殺の名曲へと変身。1979年にはジョージア州の州歌にも認定されてしまったほどだから、すごい。

というわけで、スロウバック・サーズデイ恒例NBPプレイリスト。今週はこのレイ・チャールズの「わが心のジョージア」を1曲目に置いて、ホーギー・カーマイケルが書いた無数の名曲の中からほんの一部ではありますが、本ブログなどでもなじみ深い顔ぶれがカヴァーしたヴァージョンでだだっと並べてみました。ただし、ラストに置いた「スターダスト」だけは『シャボン玉ホリデー』世代にとって抗えない例のヴァージョンで、ね。

お楽しみください。


Hoagy on My Mind - Hoagy Carmichael Songbook

Apple Musicアプリアイコン
  1. Georgia on My Mind / Ray Charles (1960)
  2. Rocking Chair / Eric Clapton (2010)
  3. Lazy River / Rickie Lee Jones (2000)
  4. The Nearness of You / James Taylor (2020)
  5. Lazybones / Leon Redbone (1975)
  6. Memphis In June / Annie Lennox (2014)
  7. Heart and Soul / Jan & Dean (1961)
  8. Two Sleepy People / Art Garfunkel (1992)
  9. Skylark / Bob Dylan (2016)
  10. Hong Kong Blues / George Harrison (1981)
  11. I Get Along Without You Very Well / Linda Ronstadt (1986)
  12. Stardust / Los Indios Tabajaras (1957)
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