エレクトリック・レディ・スタジオ:ヴィジョン/ジミ・ヘンドリックス
近ごろはボックス天国というか、ボックス地獄というか…。この夏以降だけ思い出しても、ジョン・レノン、デヴィッド・ボウイ、ポリス、エルヴィス・プレスリー、ニール・ヤング、ボブ・ディラン&ザ・バンド、ブルース・スプリングスティーン、ジョニ・ミッチェルなど、ほんと気になる箱ものが続いて。さすがにヘトヘトではありますが。
もういっちょダメ押しっぽいの、来ました。ジミ・ヘンドリックス。3CD+1ブルーレイの4枚組『エレクトリック・レディ・スタジオ:ヴィジョン』。文字通り、もともとはニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジにあったナイトクラブの跡地を買い取ったジミ・ヘンドリックスがプロ向けのレコーディング・スタジオへと改装した“エレクトリック・レディ・スタジオ”をめぐるボックスセットだ。2022年に出るの出ないの言われていたものだけれど、いろいろあって頓挫。流出音源がブートとしてけっこう広く出回っていたから、持ってる人はもう持ってることでしょうが。何はともあれオフィシャル盤、ようやく出ました。
3枚のCDのほうにはジミが他界する直前、1970年の6月から8月、この新設されたスタジオで、ジミ(ギター)、ビリー・コックス(ベース)、ミッチ・ミッチェル(ドラム)という新生ラインアップによるジミ・ヘドリックス・エクスペリエンスがレコーディングした音源から多彩なデモ、バックトラック、リプやカッティングのスケッチ、別アレンジ、別テイク、別ヴァージョン、別ミックス、いろいろな曲をメドレーで演奏したジャム・セッションなど全39トラック(うち38トラックが未発表)が収録されていて。ブートも含め、この時期の音源は他の時期に比べてけっこう少な目なので、こうしてオフィシャル・リリースが実現したことは、まじ、うれしい。エディ・クレイマーとミッチ・ミッチェルによる後ダビング分はもちろんなし。
ブルーレイにはスタジオが出来上がっていく経緯、レコーディングに参加したスティーヴ・ウィンウッドらのコメント、エディ・クレイマーによる楽曲解析などを含む新作映像ドキュメンタリー『ア・ジミ・ヘンドリックス・ヴィジョン』と、没後、『クライ・オヴ・ラヴ』『レインボウ・ブリッジ』『ウォー・ヒーローズ』などに分載されて世に出た発掘音源を集め1997年に再編纂されたアルバム『ファースト・レイズ・オヴ・ザ・ニュー・ライジング・サン』全17曲に、さらに3曲(『レインボウ・ブリッジ』収録の「パリ・ギャップ」、『ザ・ジミ・ヘンドリックス・ボックス・セット』で世に出た「ラヴァー・マン」、『ヴァリーズ・オブ・ネプチューン』のタイトル・チューン)を追加した20曲の5.1サラウンド・ミックス音源が収められている。
ロック、ファンク、R&B、ジャズなどの要素が刺激的に交錯。もし他界せずジミが音楽活動を継続できていたらどんなことをやっていたのか、この時期の彼の音源を聞くたびに誰もが思いを巡らすことだろうけど。そんな想像をさらに深く、具体的なものに導いてくれそうな音源/映像集という感じ。超マニアックな音源集なので、これでジミ・ヘン入門とか絶対におすすめしませんが(笑)、ジミの作品群をそれなりに聞き込んできたファンにとっては貴重な資料となるはず。このスタジオでもっともっと長い期間、ジミが思いのままに試行錯誤を繰り返していけていれば、音楽シーンはきっと大きく変わっていたのだろうな…。
未発表写真、ジミ・ヘンによる曲の下書き、詳細なライナーなどを満載したブックレット付き。日本盤にはそれら英文解説の完全翻訳、歌詞対訳、語り部分の訳などを掲載した日本版ブックレットも付いて。ありがたいことです。