Disc Review

Let's Get Lost: Songs Chet Sang / Katharine Whalen's Jazz Squad (Modern Harmonic)

レッツ・ゲット・ロスト:ソングズ・チェット・サング/キャサリン・ホエイルンズ・ジャズ・スクワッド

本ブログではずいぶんと昔から何かと機会があるたび登場しているジムボー・マサス。ミシシッピ生まれで、後に拠点をノース・カロライナ州チャペル・ヒルに移し、1993年、ごっきげんにパンキッシュなグッド・タイム・ミュージック・バンド、スクォーレル・ナット・ジッパーズを結成し、マニアックに大暴れを展開してきた人ですが。

このジッパーズの結成のきっかけとなったのが、本日の主役、キャサリン・ホエイルンと出会って結婚したこと。ジムボーの米国ルーツ音楽に関する深い知識と情熱と、キャサリンさんのおしゃれな佇まいとノスタルジックな歌声のタッグ。これがジッパーズの魅力だった。

けど、やがてふたりは離婚。バンドも解散。キャサリンさんはシーンの表舞台から一歩引いたところへ。まあ、1999年に初ソロ・アルバム『キャサリン・ホエイルンズ・ジャズ・スクワッド』を出したのを皮切りに、5年に1枚くらいのペースで地味ーにアルバムをリリースしてくれたり、ジッパーズの再結成ツアーに参加したりはしていたものの、ファンとしてはちょっぴり物足りない状況が続いていた。

もちろん、アルバム・リリースはなくとも音楽活動は地道に続けているようで。地元ノース・カロライナ州のスモール・タウン、ヒルズボロにある《ヤンダー》というカクテル・バーにキャサリン・ホエイルンズ・ジャズ・スクワッドとして月イチのペースで出演し続けているのだとか。

なんでも、ヒルズボロという街は、イメージとしては『ツイン・ピークス』と『ノーザン・エクスポージャー アラスカ物語』が合体したようなところらしく。そこでキャサリンさんみたいな人がグレイト・アメリカン・ソングブック系の歌声をレギュラーで聞かせているなんて。まさにデヴィッド・リンチの世界。.ちょっと素敵というか、やばいというか…。

そんなキャサリンさんの新作。出ました。2021年、ビリー・ホリデイのレパートリーばかりをカヴァーした『トゥ・ハイド・ア・ハート・ザッツ・ブルー』以来かな? 今回は3年ぶり。やはりキャサリン・ホエイルンズ・ジャズ・スクワッド名義での1枚で、メンバーはキャサリン(ヴォーカル)、ダニー・グリーウェン(トロンボーン)、オースティン・リオペル(ギター)、ロバート“グリファンゾ”グリフィン(ピアノ)という顔ぶれ。

基本、ジッパーズのメンバーでもあったグリファンゾがピアノでベースラインも含めた伴奏をがっちり固めて、グリーウェンとリオペルがオブリを重ねて、キャサリンや時折男性メンバーたちが歌う、みたいな作りだ。キャサリンさんはあまり上手じゃないけど、軽いドラムの真似事みたいなことも。

前作はビリー・ホリデイのレパートリー集。それに引き続き今回は、アルバムの副題とかジャケット・デザインとかからもおわかりの通り、チェット・ベイカーのレパートリー集だ。といっても、もともとチェットのカヴァー・アルバムを出そうと狙っていたわけではないらしく、好きな曲をひとつひとつ録音していったら、結果的にどれもチェット・ベイカーが歌っていた曲だった…的な。その結果生まれた偶発的なトリビュート作なのだとか。

特にメンバーそれぞれテクニック的に抜きん出たプレイヤーというわけでもなく。キャサリンの歌声も含めて、ちょっとゆる〜い仕上がりではあるのだけれど。その感じも含めて、なんだか米国のスモールタウンのカクテル・バーって感じが、よろしげ。全員がこういう曲が好きでたまらない、という感触がひしひしと伝わってくる。たまらない。

レコーディングも普通のレコーディング・スタジオではなく、ヒルズボロの古い礼拝堂みたいなところでの一発録りだったみたい。その辺、全部受け止めつつ、こちらもゆる〜く楽しみたい1枚です。

アナログLPは全11曲入り。CDは2曲(「イースト・オヴ・ザ・サン」と「ユーアー・ドライヴィング・ミー・クレイジー」)多い全13曲。ストリーミングはCDより1曲(「ジャスト・フレンズ」)少ない全12曲。こりゃ間違いなくCDの勝ちなわけですが。でも、どう考えてもアナログで聞きたい1枚だからなぁ。アナログ+ストリーミングで全13曲味わうのが正解かな。あー、悩ましい。

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