Disc Review

Forever & Ever / Thee Heart Tones (Big Crown Records)

フォーエヴァー&エヴァー/ジー・ハート・トーンズ

1980年代に入ってからだったと思うけれど、何かの機会にキューバの人気アーティスト、ロランド・ラセリエが1960年にリリースしたアルバムを手に入れたことがあって。すっげえよくて、どハマりしたものです。そのアルバムのタイトル・チューンが「サボール・ア・ミ」って曲で。ぼくは雑に“サボラミ”って言ってますが。

モダン・ボレロ作家でギタリストでもあるアルバロ・カリージョが1950年代に書いた名曲で。いい曲だなー…と、すっかり夢中。以来、ぼくのフェイバリット・ラテン・チューンのひとつに。その後もホセ・フェリシアーノとか、ロス・トレス・アセスとか、イーディ・ゴーメ&ロス・パンチョスとか、ルイス・ミゲルとか、ロス・ロボスとか、いろいろなシンガーのヴァージョンを大喜びしながら聞き続けてきたわけですが。

またひとつ、好感が持てる「サボラミ」のヴァージョンに出会いましたよ。それが今朝ご紹介するジー・ハート・トーンズのヴァージョン。

この人たち、ビーチ・ボーイズの故郷としてもおなじみ、米カリフォルニア州ホーソーンの出身で。ジャスミン・アルバラド(リード・ヴォーカル)、リッキー・セレッソ(キーボード)、ホルヘ・ロドリゲス(ドラム)、ジェフリー・ロメロ(ベース)、ピーター・チャゴジャ(ギター)、ウォルター・モラレス(ギター)というメキシコ系の6人組。

ホルヘが21歳で最年長、ジャスミンが19歳…という、とっても若いバンドにもかかわらず、さすがレトロ・ソウル・シーンを牽引するビッグ・クラウン・レコードが契約するだけのことはあって、世代にそぐわぬ往年のチカーノ・ソウルの沼にどっぷり浸かっていて。しびれます。

チカーノ・ソウル。つまり、1970年代のイーストLAあたりのローライダーたちのバリオ・クルージングのBGMとして欠かせなかった感じの、やばくて、でもとびきりスウィートなソウル・ミュージック。この若者たちは、まだまだどこか拙さが残るパフォーマンスではあるものの、そのかけがえのない魅力を今の時代に改めて甦らせようとしてくれているわけだ。素晴らしい。頼もしい。

で、今回リリースされた初アルバム、全編にそんなチカーノ・ソウルの要素を継承したオリジナル曲がずらり並んでいるのだけれど。中に1曲、なんと「サボラミ」のカヴァーが入っていたのでした。びっくり。けっしてアルバムの売りとなるようなトラックではなく、仕上がりがむちゃくちゃいいとかそういうわけでもない。でも、ジャスミンさんによれば、「私たちがちゃんと自分たちのルーツに立ち返っているのだということを聞き手のみんなに伝えたかったから」この曲のカヴァーに挑んだのだとか。偉いじゃないですか。

もちろんカヴァーの「サボラミ」ばかりじゃなく、オリジナルにもいい曲多し。アルバムのオープニングを飾る必殺のミディアム・チューン「フォーエヴァー&エヴァー」とノーザン・ソウル調の「ニード・サムシング・モア」は、クレイロとかノラ・ジョーンズとかの新作でもいい仕事していたレトロ・ソウル・シーンの重要人物、リオン・マイケルズとメンバーたちとの共作で。やはり特に出来がいい感じ。ギターのリッキーがジャスミンをバンドに誘ったとき、この曲に歌詞をつけてみてくれない? と最初に頼んだというメロウなマイナー・バラード「ドント・テイク・ミー・アズ・ア・フール」もナイス。

リッキーもいいこと言ってて。「LAで育つということは、この街と、そこに溢れるアートワーク、そして音楽から影響受けるということ。ぼくの父親はローライダー・カーに乗ってはいなかったけれど、他の家族はみんな乗ってた。インパラとかエル・カミーノとか。ぼくたちは特にチカーノの文化に影響を受けた。オールディーズやソウル・ミュージックも重要な役割を果たしてくれた。スタイル。文化。過去への敬意。それがぼくたちが目指すものだ。若い世代のチカーノたちと自分たちの伝統でつながっていきたい。古い世代と新しい世代を結びつけていきたい…」と語っている。

佳き時代の空気感というやつが、時を超えて、世代を超えて、受け継がれていくのを見るのはやっぱり楽しいです。フィジカルはクリアー・オレンジのカラー・ヴァイナルLPがメインみたいだけど、カセットとかCDもバンドキャンプとタワーレコードでは売ってました。

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