Disc Review

The Great American Bar Scene / Zach Bryan (Belting Bronco/Warner)

ザ・グレイト・アメリカン・バー・シーン/ザック・ブライアン

今、アメリカの、特にカントリー系のミュージシャンの作品を聞く際、状況が状況なだけに、どうしてもその人の政治的スタンスとか、そういうのが否応なく、いつも以上に気になってしまうわけですが。

この人、ザック・ブライアンがいきなり大売れしたときもちょっと悩んだ。両親とも米海軍に従事していて、日本に駐留しているとき横須賀で生まれ、自身も海軍兵に。従軍中、兵舎の前でiPhone使って撮った弾き語り動画をYouTubeに投稿したところ、それがバズって軍に籍を置いたままデビューに至った…という、そういう流れの人だけに、んー、どっち寄りなのかなぁ的な? 余計なお世話だけど。

そんなザックさんの新作が昨日出ました。発売日がフォース・オヴ・ジュライ。独立記念日ってこともあって、これまた改めてどっち寄りなのかいろいろ考えさせられたり。まあ、どっちってどっちのことだよ…みたいな話ではありますが(笑)。

もちろん、そんなこと関係なく、ぼくら聞き手はシンプルに作品そのものを楽しめばいいだけ。なので、除隊して初のリリースとなった2022年のヒット・アルバム『アメリカン・ハートエイク』にしても、全米ナンバーワンに輝いた去年の『ザック・ブライアン』にしても、基本的にはいろいろややこしいことは考えずに堪能させてもらっております。

実際、前作『ザック・ブライアン』にはケイシー・マスグレイヴスとかシエラ・フェレルとかルミニアーズとか、本ブログでも取り上げているようなアーティストたちも客演していて。シングルとしても全米ナンバーワンになったケイシーとのデュエット曲「アイ・リメンバー・エヴリシング」に至っては去年の暮れ、バラク・オバマが選ぶ恒例のプレイリスト“Barack Obama’s Favorite Music of 2023”にも名を連ねていたし。

今回の新作にも、サーティ・タイガースとか4ADとかからアルバムを出しているシンガー・ソングライター、ジョン・モアランドとか、ジョン・メイヤーとか、さらには我らがボス、ブルース・スプリングスティーンまでゲスト参加しているし、アルバム・タイトル・チューンにはスプリングスティーンの「ステイト・トゥルーパー」やジョニー・キャッシュの「ヘイ・ポーター」のタイトルも引用されているし。あ、基本こっちの人なのね的な理解の下で楽しんでおります。もう一人、往年のホンキー・トンク・カントリーの美学を継承しようとがんばっているらしきカナダ出身の若手、ノーリン・ホフマンも先行シングル「パープル・ガス」に参加していて、この人も興味深い。

冒頭を飾る「ラッキー・イナフ」は前作同様、詩の朗読だ。スプリングスティーンとか、ガース・ブルックスとかのライヴを見てるみたいな気分。

ぼく程度の英語力だと深くは理解できないのだけれど、“若さとはあらゆる教訓が横たわる屋根裏部屋だ/子供たちが生まれたら伝えよう/誰もが同じだと/苦しみ、笑い、過ぎゆく日々のシルエット…”とか“俺の思い出はけっしてチープじゃないし、簡単に得られるものでもない”とか、“運がよけりゃ親しい者を亡くすことも理解できるのだろう/大晦日に歯を食いしばり幽霊たちと話してみる”とか、なんだかしびれるフレーズを連ねたのち、“運がよけりゃ、今、こうして深く息をしているこの場所にたどり着ける/大地に頭を横たえて流れ去る雲を眺めながら笑う/運がよけりゃ、俺たちがこれまで体験してきた不確かなものをすべて思い出せる/涙と怖れの中、ビールを手にするんだ。それが偉大なるアメリカの酒場の光景…”と締めくくられてアルバムがスタートする。

いきなり34曲(!)入りだった『アメリカン・ハートエイク』よりは少なく、16曲入りだった前作よりはちょっと多い全19曲。多作な人だなぁ。現在28歳ながら、スプリングスティーンとか、ガイ・クラークとかのように、つらい境遇の下、スモールタウンでひっそり誰にも知られぬまま、心に棲む悪魔と闘い、あがき、悩み続ける者たちの思いに目を向け、寄り添い、静かに歌い綴るその作風には、ちょっとした風格も。

「ライク・アイダ」って曲では“ナッシュヴィルに行って帽子を傾けてみりゃわかる/あんなクソみたいなもん、俺の趣味じゃない/俺は調子っぱずれのギターと、やりすぎのジョークが好きなんだ/それにバーテンダーどもは並外れて意地が悪い…”みたいなこと毒づいていて。なんだか、かっこいいです。

今のところデジタル・リリースのみ。ぼくはとりあえずハイレゾでゲットしましたが、フィジカルはCD、LP、ともに10月発売みたい。音だけはとりあえず7月4日に出したかったということかな。

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