Disc Review

A Little Touch of Schleicher in the Night / Katie Von Schleicher (Sipsman)

ア・リトル・タッチ・オヴ・シュライヒャー・イン・ザ・ナイト/ケイティ・フォン・シュライヒャー

昨夜のCRTトム・ウェイツNight、たくさんのご来場ありがとうございました。たくさんの方とトム・ウェイツの新旧歌声をたっぷり味わえて、とても楽しかったです。来月は『コンプリート武道館』リリース記念、今年2度目のボブ・ディランまつり。『武道館』のことはもちろん、久々にエレキ・ギター抱えて立ち姿でパフォーマンスしたファーム・エイドの話題、ご当地ソングとか歌いまくっている最新北米ツアーの話題、間もなく刊行される書籍『Bob Dylan:Mixing Up the Medicine』の話題など、語りまくり、聞きまくりの夜になることでしょう。詳細はロック・カフェLOFTのサイトなどでご確認ください。

というところで、今朝のピックアップ・アルバム。元ワイルダー・メイカー、ブルックリンを本拠に活動するシンガー・ソングライター、ケイティ・フォン・シュライヒャーの新作『ア・リトル・タッチ・オヴ・シュライヒャー・イン・ザ・ナイト』です。このアルバム・タイトル見て、おっ、ニルソンじゃん! と盛り上がって。すぐさま飛びついちゃいましたよ。

ご存じの通り、ハリー・ニルソンが1973年、壮麗なストリングス・オーケストラをバックにグレイト・アメリカン・ソングブック系の名曲をカヴァーしまくった名盤『夜のシュミルソン』の原題が“A Little Touch of Schmilsson in the Night”なもんで。ケイティさんも今回、ついにスタンダード・カヴァーものでも出したのかな、あのウィスパー・ヴォイスとスタンダード・ナンバーの取り合わせ、良さそうじゃないか…と、勝手に期待を膨らませつつ聞いてみたのだけれど。

早合点でした(笑)。『夜のシュミルソン』的な要素が特に強いわけでもない1枚で。どういうことだろう? もともとニルソンのほうのアルバム・タイトルも、シェイクスピアの史劇『ヘンリー五世』の第4幕に出てくる“a little touch of Harry in the night”というフレーズに触発されたものだったらしく。ケイティさんもシェイクスピアを意識したのかな。あ、いや、そうじゃなくて。やっぱり単に“シュミルソン”と“シュライヒャー”の響きの相似性から思いついただけなのかな。よくわかりませんが。

まあ、当初の身勝手な期待は外れたものの、それとは関係なく、今回も素敵な仕上がりでした。2020年の『コンサメイション』以来の1枚で。この人、デジタル・オンリーとか、ミニ・アルバムとか、カセットとか、いろいろな形で作品リリースをしているもんで、何作目か数えにくいのだけれど。自主制作盤を除くと、オリジナル・アルバムとしてはこれが4作目かな。たぶん。

当初はサウンドも含めてかなりダウナーかつ内省的な手触りで。エンジェル・オルセンとかシャロン・ヴァン・エッテンとかフィービー・ブリジャーズとかを想起させるフィーメール・オルタナティヴ系の世界観が印象的だったのだけれど。アルバムを重ねるたびに、歌詞の手触りだけは内省的なまま、音作りのほうは少しずつ外向きに、穏やかになってきて。今回もその方向性をさらに突き進めたメランコリックな仕上がり。

深く内省的な歌詞と、軽やかなメロディと、ささやくような透き通った歌声と、ほのかにポップなサウンド。ブルックリンつながりのサム・エヴィアンとの共同プロデュースの下、アヴァン・ポップやエレクトロニカ、ポップ・サイケなどの要素も的確に取り込みつつ繊細に編み上げられたチェンバー・ポップ盤という感じだ。

けっして過剰にではないけれど、ストリングスやホーンも効果的に導入されていて。この辺の、インディ・ポップものとしてはちょっと異色なアプローチに『夜のシュミルソン』とのつながりがあるのかも。軽やかなグルーヴを伴った「エヴリ・ステップ・イズ・アン・オーシャン」のような曲でも、淡々と綴られる「テキサス」のようなピアノ弾き語り系のバラードでも、素敵なストリングス・アンサンブルが楽しめます。

デジタル・リリースの他、今のところフィジカルはヴァイナルのみみたい。

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