エイント・ノー・プライス・オン・ハピネス:ザ・トム・ベル・スタジオ・レコーディングズ(1972〜1979)/スピナーズ
今年11月に授賞式が行なわれる第38回ロックンロール・ホール・オヴ・フェイム。今回、殿堂入りを果たしたのはケイト・ブッシュ、シェリル・クロウ、ミッシー・エリオット、ジョージ・マイケル、ウィリー・ネルソン、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、そして本日の主役、ザ・スピナーズ!
そんな殿堂入りを祝して、スピナーズの7枚組ボックスセットが編まれましたよー…と、そういうお話です。めでたい。
R&B系の充実した再発ラインアップを誇るソウルミュージック・レコードのデヴィッド・ネイザンと、人気のリイシュー・サイト、ザ・セカンド・ディスクのジョー・マーケイジーがプロデュースした箱で。彼らが古巣モータウン・レコードを離れてアトランティック・レコードへ移籍してからのオリジナル・アルバムのうち、移籍第一弾の『スピナーズ』(1973年)から『フロム・ヒア・トゥ・イターナリー』(1979年)まで、トム・ベルがプロデュースを手がけていた8作がまるっと収められている。全92トラック。そのうちシングル・エディットとか、LP未収録音源とか、ボーナスが25トラックだ。
内訳としては、CD1に『スピナーズ』のオリジナル収録曲に加えて、アトランティックでのファースト・セッションの音源やリミックスなど計8トラックをボーナス追加。CD2には『マイティ・ラヴ』(1974年)+シングル・ヴァージョン5トラック。CD3には『新しき夜明け(New and Improved)』(1974年)+シングル・ヴァージョン2トラック。CD4に『フィラデルフィアの誇り(Pick of the Litter)』(1975年)+シングル・ヴァージョン2トラック、および『ハピネス(Happiness Is Being With the Spinners)』(1976年)+シングル・ヴァージョン1トラック。CD5に『イエスタデイ、トゥデイ・アンド・トゥモロウ』(1977年)+シングル・ヴァージョン2トラック。CD6に『スピナーズ8』(1977年)+シングル・ヴァージョン2トラック。で、CD7が『フロム・ヒア・トゥ・イターナリー』(1979年)+シングル・ヴァージョン3トラック。
そういえば2年前、スピナーズが32年ぶりの新作スタジオ・フル・アルバム『ラウンド・ザ・ブロック・アンド・バック・アゲイン』を出したとき、大喜びで紹介しつつ、ぼくが彼らの音を初めて聞いたときのこととか書かせてもらったことがある。繰り返しになりますが、それを改めてここにも引用させてもらいます。
この人たちのことを知ったのは、以前、本ブログでも、もろもろの雑誌の原稿とかでも触れたことがあるワーナー・パイオニア・レコードのアナログLP2枚組コンピレーション『ホット・メニュー’73』でだった。なんと980円という廉価で出たカタログ・コンピ。LPのA面とB面にワーナー・ブラザーズ/リプリーズ系、C面とD面にアトランティック系のアーティストの楽曲を全28曲詰め込んだお得な2枚組で。
個人的にはこのコンピでタワー・オヴ・パワーとかJ.ガイルズ・バンドとか、その後もずっと大好きで聞き続けることになるアーティストの音に初めて出会ったり。思い出深いLP2枚組。で、そこで出会ったアーティストのひとつがスピナーズだった。
収録されていた曲は「アイル・ビー・アラウンド」。“いつもあなたと”という邦題が付けられていたっけ。のちにあれこれサンプリングされることになるトム・ベル&フィル・ハート作による1972年の名曲。♪ドン・ストドン・ドン・ストドン…という、独特のビート・パターンの下で展開するポップなフィリー・ソウルで。キャッチーさと洗練された感触との絶妙のバランスにやられた。
で、いろいろチェックしてみたら、もともとはデトロイトのグループで。モータウンからスティーヴィー・ワンダー&シリータ・ライト作の「イッツ・ア・シェイム」など、ヒットを飛ばした後、アトランティックに移籍してきたってことを知って。さっそく、この「アイル・ビー・アラウンド」が入っている1973年の『フィラデルフィアより愛をこめて(Spinners)』ってアルバムを買った。
ここに、他にも日本盤アルバムの表題曲「フィラデルフィアより愛をこめて(Could It Be I'm Falling in Love)」とか、もともとは「アイル・ビー・アラウンド」のシングルA面曲だった「気をきかせてよ(How Could I Let You Get Away)」とか、「ワン・オヴ・ア・カインド」とか「ゲットー・チャイルド」とかヒット・シングルが満載されていて。最高だった。当時、フィラデルフィア・インターナショナルのケニー・ギャンブル&レオン・ハフと並ぶフィリー・ソウルの重要な仕掛け人として活躍していたプロデューサー、トム・ベルの全盛期の手腕がたっぷり味わえた。このアルバムの場合、特にデトロイトっぽさとフィラデルフィアっぽさがいい塩梅で溶け合っている感じで。おいしかった。
パフォーマーとしてのスピナーズと、プロデューサー/アレンジャーだったトム・ベルと、両者ががっちり幸福なタッグを組んでいた時期の記録。この時期以降、プロデュースはマイケル・ゼイガーが引き継ぐことになるわけだけれど、やっぱりその前まで、トム・ベル時代こそがスピナーズの絶頂期だと再確認させてもらえるボックスセットだ。ロックンロール名誉の殿堂入りを寿いで、存分に楽しみましょう。ちなみに、去年の暮れに亡くなったトム・ベルへの追悼の気持ちをこめてぼくがセレクトしたプレイリストもこちらに掲載させていただいています。そちらもお暇がありましたら、ぜひ。