アイヴ・ガット・ミー/ジョアナ・スターンバーグ
マンハッタンを拠点に活動するシンガー・ソングライターの2作目。前作がコナー・オバーストのチーム・ラヴ・レコードから出たのは2019年だから、4年ぶり? ぼくはそのとき気がついてなくて、2021年にファット・ポッサム・レコードから広く再発されたときに初めて聞いてハマりました。ということで、ぼくにとっては2年ぶりくらいの新作です。
絶望とか自己嫌悪とかかなわぬ思いとかを主題に、淡々と、無防備に、親しい友に語りかけるように…というか、まるでひとりごとをつぶやくように内省を綴っていくその個性は今回も変わらず。同じテーマをより精緻に編み上げた1枚という感じか。今回はボニー“プリンス”ビリーやキャット・パワーとのコラボなどでもおなじみ、マット・スウィーニーのプロデュース。
カレン・ダルトンのような、ヴィクトリア・ウィリアムスのような、というかもっともっと昔のシンガーをSP盤で聞いているかのような歌声。ダニアル・ジョンストンとジュディ・シルとランディ・ニューマンとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの間を哀しげに行ったり来たりするような感触。
オープニングを飾るアルバム・タイトル・チューンでこの人、“自己嫌悪と自己認識の間には/とても細い境界線しかない”と歌っていて。アルバム全編を通してジョアナさんはその儚い境界線を行ったり来たりする。別れを告げてきた元カレとの飲んだくれの日々と荒れまくりの腐ったベッドルームでの情事に苦々しい嫌悪を投げつける「ストックホルム・シンドローム」って曲とか強力だったな…。
訥々としたギター、あるいはどこかノスタルジックなピアノの弾き語りによる曲が基調ではあるけれど、リズム・セクションをともなった、珍しく明るい曲調の「ピープル・アー・トイズ・トゥ・ユー」って曲でも、いきなり“あなたに出会えてとてもうれしかった/あなたのおかげで私が自分をどれだけ嫌っているかわかった…”とか歌い出して。と同時に“私はあなたが私を苦しめることに同意した”とも歌っていて。油断なりません。
“これは私があなたの元を去るときに歌う曲よ”と歌い出されるアルバムのラスト・チューン「ザ・ソング」では、“ずっと眠ってずっと内に隠れて/ずっと酔っ払ってずっとプライドを失って/何か失うものがあるうちは/もうブルースは歌わない…”などと綴ったあと、“いつか痛みがなくなったら/立ち上がって外に出て自由になるの”と続けられるのだけれど。そんな日が本当に来るのかどうか、ジョアナさん自身、まったく期待していないのだろうなぁ…。
きわめてシンプルに綴られているようでいて、聞き進めていくとそこにとてつもなく複雑な思いが重層的に託されていることがわかる、みたいな。なんかすごい人だなと思う。痛いっちゃ痛いけど、なんだか離れがたい魅力を放つ1枚です。自身が描くアルバム・ジャケットも相変わらずちょっと壊れ気味で魅力的。