Disc Review

Let There Be Music / Bonny Doon (Anti-)

レット・ゼア・ビー・ミュージック/ボニー・ドゥーン

なんだか不思議な吸引力を持ったデトロイトのゆるふわインディー・ロック・ユニット、ボニー・ドゥーン。当初は4人組だった気がするけど、その後、ビル・レノックス(ギター/ヴォーカル)、ボビー・コロンボ(ギター/キーボード/ヴォーカル)、ジェイク・クミーチック(ドラム)というトリオ編成になって。

2017年に自主制作されたファーストも、2018年のセカンド『ロング・ウェイヴ』も、実に独特な、なんというか、こう、ダウ90000的に言うところの“ちょうどいい”感じの傑作だったのだけれど。

その後、新型コロナ禍で活動が思いきり制限されたり、複数メンバーが深刻な病魔に冒されたり、後遺症に悩まされたり、ワクサハッチーことケイティ・クラッチフィールドのバック・バンドとしてアルバム作りやツアーをサポートしたり…。いろいろあって自分たちの活動がなかなか思うように進まなくなって。

2020年にサード・マン・レコードから人気曲6曲をライヴ演奏したLPを出したことはあったものの、スタジオ・フル・アルバムはずっとおあずけ状態。でも去年、晴れてアンタイ・レコードと契約して。移籍第一弾シングル「サン・フランシスコ」をリリースしたのに続いて、おまちどおさま! 新作、完成にこぎつけましたー。

今回も、まじ、絶妙に“ちょうどいい”です。以前のアルバムよりも音作りの視点が明晰になったみたい。ゆるいばかりでなく、締めるところは締める、的な? 投げやり感も少し抑え気味に。ワクサハッチーとのツアー体験などがいい形で実を結んでいるのかも。

アルバム冒頭に収められているのは“あの街に住んでいると/説明するまでもないよね/愛がいっぱい/傷みがいっぱい…”という歌い出しからしびれる前述アンタイへの移籍第一弾シングル「サン・フランシスコ」。

“人生は花/時は夢/愛は川/すべてを通り抜ける/誰もが待っている/誰もが夢見ている/誰もが見たことのないものを求めている…”と歌うビル・レノックスも、ワクサハッチーやジョン・アンドリューズ&ザ・ヨーンズらを交えた“ウ・ラ・ラ”コーラスもごきげん。21世紀型フラワー・ムーヴメントというか、サマー・オヴ・ラヴというか。

以降、どの曲にも1970年代ローレル・キャニオン・ロックと昨今のインディ・ロックとが分かちがたく融合しているような、往年のヘイト・アシュベリーに今どきのサイケデリック・ルネッサンスがぶちこまれたような、グレイトフル・デッドとバーズとペイヴメントとヨ・ラ・テンゴが一緒くたにぐるぐる絡み合いながらグルーヴしているような…。

「クルキッド・クリーク」って曲ではレノックスがサッドネス、つまり“悲しみ”がぽつんとひとり座っているところに出くわして、“なんか悲しそうだね”とか声をかけたりしていて(笑)。ドラッギーというか、トリッピーというか…。意識的なのか無意識のうちになのかはわからないけれど、悲しみを根拠なきオプティミズムでざっくり乗り切るあたり、なんだか懐かしのヒッピー・カルチャーっぽい。

捻れた時空間フィールに、なんだか心ときめきます。

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