Disc Review

What Matters Most / Ben Folds (New West Records)

ホワット・マターズ・モースト/ベン・フォールズ

ベン・フォールズ・ファイヴが本格デビュー直後、1996年に初来日したとき、彼らにインタビューすることができた。その際、ベン・フォールズが口にしたひとことで、あ、こいつはイケる、信頼できる、絶対すごいやつだと思った。

自身の音楽的ルーツに関する質問に対し、ベンさんはまずこんなことを語ってくれたのでした。

「ぼくの場合、最初に印象に残っているシンガーはリトル・リチャード。親父が家の改装の仕事をしていたんだけど。けっこう黒人地区での仕事が多くてね。そういう家からR&Bのレコードとかソウル・トレイン・コレクションとかを持って帰ってきてくれた。子供のころからそれを聞いて育った。次に影響を受けたのはニール・セダカ。曲作りの面ではニール・セダカからの影響がいちばん強いね。そのあとエルヴィス・コステロとか、パンク・ロックから影響を受けて…」

素晴らしい。リトル・リチャードとニール・セダカ。文句なし。ロックンロールの凶暴な側面ととびきりメロウな側面と、その両極をそれぞれ代表する偉大なアーティスト二人がルーツにあるというのだから。この人が間違ったことをするはずがない、と。ぼくはそう確信したのでした。

その後、“あなたの作る曲にはどこか懐しいメロディ・センスがありますね”と質問してみたところ——

「自然に作るとそうなるんだ。ぼくは趣味が古いのさ。オールド・ファッションド。といっても、1970年代的とかそういうのではなく、もっと古い。コール・ポーターとか…」

と答えてくれた。これまた100点。で、“ニール・セダカもまさにそうした素養を持ったソングライターですしね”と質問を重ねたら——

「そう。クロマティックなメロディ・ラインが好きなんだ。ビートルズとかもそうだったけど。確かに最近のレコードを聞いていると、メロディってのが後ろに引っ込んでいる気がする。コード進行がまずあって、そのコード進行そのものが持つエネルギーがメロディを引っ張っている。というか、その裏側にメロディが隠れてしまっているって感じかな。でも、ぼくにとってまず大事なのがメロディ。その次がグルーヴだ」

もう30年近く前のやりとりではありますが。この発言にベン・フォールズの音楽の資質のようなものがよく表われている気がする。だからこそyMusicやナッシュヴィル交響楽団と組んだり、アニメーション映画の音楽を手がけたり、非ロック的な分野まで巻き込みながら長年、柔軟な活動を続けてくることができたのだろうと思う。

と、そんなベン・フォールズさん、8年ぶりの新作が完成しました。イースト・ナッシュヴィルで共同プロデューサーのジョー・ピサピアとレコーディングした『ホワット・マターズ・モースト』。7拍子で、しかしとびきりポップにグルーヴする先行シングル「ウィンスロー・ガーデンズ」を聞いたときから期待しまくってきたけれど、その期待を裏切らない充実作だ。相変わらずキャッチーでポップなメロディに乗せて、うれしかったり、ほろ苦かったり、滑稽だったり、ちょっぴり不穏だったりする人生のいくつもの局面を軽妙にスケッチしながら綴っていく。

ツアー中のトラックストップでの一夜のやさぐれたラヴ・アフェアをミュージカルふうに描いた「エグゾースティング・ラヴァー」とか、“もう十分だと思えたとき、君の元を離れようと思った/君を傷つけるより、君に傷つけてもらいたかった”とか切ないメロディに乗せて歌う「フラジャイル」とか、“君はぼくが7年生のときから知ってるあのクリスティーンなの?/苗字は変わっちゃったけど、君なんだよね?”という謎めいた歌い出しで始まって、やがてクリスティーンさんが、怒りに満ち満ちた、全部大文字の、Qアノンっぽい陰謀論まみれのメールをこの2年間毎日送り続けてくるようになってしまったことに戸惑いまくっていることが判明する「クリスティーン・フロム・ザ・セヴンス・グレイド」とか…。

現在の世の中に溢れる、さまざまな形の関係性の機能不全みたいなものをバラエティ豊かに、適度なユーモアもまぶしながら盤面に散りばめてみせる。やはり一筋縄にはいかない、優れたソングライターだなと改めて思い知らされる1枚です。

ガーナ生まれのシンガー・ソングライター、ルビー・アマンフや、イギリス生まれのドディ、そしてボストン本拠のエレクトロ・フォーク・バンド、トール・ハイツなどがゲスト参加。ちゃんと調べ切れていないのだけれど、ボーナス・トラック入りの限定カラー・ヴァイナルとか、ケネディ・センターでのライヴ音源が追加されたCDとか、いろいろなパターンが出てるみたい。やばい…。

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