Disc Review

Green Onions: 60th Anniversary Edition / Booker T. & The M.G.s (Rhino/Atlantic)

グリーン・オニオン:60周年エディション/ブッカー・T&ジ・MGズ

以前、われらがDr.kyOnに、彼が好きなキーボード奏者のことをあれこれインタビューさせてもらったことがある。そのとき、彼はブッカー・T・ジョーンズについてこんなことを話してくれた。

「MGズの一員としてソウルのバックで聴かせるオルガンのスタイルを一つ、完全に編み出した張本人ですから。コピーもしました。なんといってもインストが多いですし。シングル・ヒットも多いし。<グリーン・オニオン>とか、キーボーディストでまずコピーして弾いてみようと思う曲のナンバー3には絶対入る気がする」

――難しいことやってるわけじゃないのに。

「そこなんですよ。だけど、あの雰囲気が出せない。やってることは実にシンプルなんですよ。ほとんど2音ずつぐらいしか鳴ってない(笑)。それも左手だけで。右手はほぼ単音ですよね。和音を使わない。右手で3和音なんて聞いたことないし」

まさにマジック。本ブログにもブッカー・Tは何度も何度もいろいろな形で登場しているけれど。2020年、コロナ禍のせいで結果、幻となってしまった来日公演のニュースを聞いて書いたエントリーで、ぼくはこんなことを書いた。

普通、インストゥルメンタル系のプレイヤーのライヴだと、これ見よがしにウルテクを披露する場になりがちだったりもするのだけれど。ブッカー・Tはレコーディングでもライヴでも、けっして饒舌なプレイに溺れない。

たとえば「グリーン・オニオン」にせよ「ヒップ・ハガー」にせよ「タイム・イズ・タイト」にせよ、これまで何千回、何万回演奏してきたかわからないブッカー・T&ジ・MGズの持ち歌を披露する際も、ひたすらクールに、ストイックに、けっしてテーマ・メロディを大きく崩すことなく、音数少なめに、しかしその少ない一音一音でとてつもないグルーヴを現出させるのだった。

なんというか、こう、ソウル音楽の“体幹”みたいなものを知り抜いている人なんだろうなと思う。ステージに姿を現わしたブッカー・Tが、ハモンドの前に座り、おもむろに鍵盤のひとつに指を下ろして単音を鳴らした瞬間、会場の空気が一気にグルーヴする。あのマジカルな瞬間をまた生で味わうことができるのかと思うと、たまらない。

今さら改めて紹介するまでもなく、ブッカー・T&ジ・MGズというのは、ソウルの名門、テネシー州メンフィスのスタックス・レコードでオーティス・レディングやサム&デイヴ、ウィルソン・ピケットら無数のR&Bシンガーたちのバッキングをつとめたハウス・バンド。当初のメンバーはブッカー・T・ジョーンズ(オルガン)、スティーヴ・クロッパー(ギター)、ルイ・スタインバーグ(ベース)、アル・ジャクソン(ドラム)。のちにベースがご存じドナルド“ダック”ダンに変わることになる。

以前、メンフィスに出向いたとき、スタックス・スタジオにも行った。スタジオとしてはすでに閉鎖していて。跡地はそのままスタックス・ミュージアムとして同レーベル関連のメモラビリアを多数展示する博物館として一般公開されている。

黒人音楽の歴史をたどったドキュメンタリー映像を流す映写室。南部の音楽を育んだ重要な拠点である教会の礼拝堂を模したスペース。様々なミュージシャン愛用の楽器、衣装、ゴールド・レコード、オリジナル・シングル、エンジニアたちが酷使していたであろう録音機器などがひしめき合う展示場。

いろいろな部屋があって、どれも興味深いものだったけれど。いちばんときめいたのは往年のレコーディング・ブースをそのまま保存した部屋だ。スタックス・スタジオはもともと映画館だった建物を改装した施設。レコーディング・ブースとして使われたのはかつて客席が設置されていたホールだった。座席をすべて取っ払ってスタジオに改造された。

そのため、床がゆるいスロープ状になっていて。部屋自体の形状もアンバランス。しかし、この奇妙な不規則性がスタックスのサウンドを独特のものにしたらしい。ラウドで、ディープで、生々しい音を提供した。手練れのR&Bマニアならば最初の数音を聞いただけでスタックス・スタジオでの録音かどうか聞き分けられるそうだ。

そんな伝説のレコーディング・ブースには今なおハモンド・オルガン、エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、ドラム、アンプ類がセッティングしてある。かつてMGズの各メンバーが愛用していた本物だ。彼らとともにセッションすることが多かったメンフィス・ホーンズが使っていた管楽器もあった。すべての楽器が、往年のレコーディングの際、演奏者が実際に陣取っていた場所にそのまま今も置かれている。観覧者が勝手にいじくったりできないよう透明なケースで各々覆われてはいるものの、まさにこの場所で、これらの楽器を使いながら、歴史的な名曲が録音されたのだなと思うと、さすがにじんわりこみ上げてくるものがあったっけ。

MGズはこのスタジオに常駐し、次から次へと名曲をバックアップし続けていた。かつて、地元のサン・レコードに所属して活躍していたビリー・リー・ライリーのレコーディングのバックをつとめていたとき、合間にブルージーなリフを4人でジャムっていたら、スタックスの創設者のひとり、ジム・スチュワートがそれを気に入り、インスト・シングルとしてリリースすることになった。

それが「グリーン・オニオン」。当初はB面曲だったけれど、1962年にリリースされると徐々に火が点き、全米3位、R&Bチャート1位に輝く大ヒットに。そのときジャクソンとスタインバーグはすでに30歳ちょっと手前のベテランだったものの、ブッカー・Tは17歳、クロッパーは20歳。若手だ。気鋭だ。以降MGズは1970年代にかけて、クールさとホットさとが同居する彼ら独自のサウンドを満載したヒットを20曲近く全米チャートに送り込むことになる。

と、そんな記念すべき初ヒットをフィーチャーしたオリジナル・アルバムが発売されてから去年で60年。というわけで、1年ずれ込んではおりますが、その60周年記念盤がオリジナル・マスターからの最新リマスタリングをほどこされて出ましたよー!

とか、まあ、そんなこと書いているわけですが。実はぼく、まだフィジカルを予約注文しただけの状態。ブツはまだ手元に届いてません。今日発売なのできっと今日発送されるとは思うのだけれど。でも、一足先にサブスクのストリーミングで音だけは公開されたのでこうしてブログで紹介しちゃってますよ。だったらブツなんか買わずにストリーミングですませばいいじゃん、とか言われそうだけれど。

いやいや、それがね。今回フィジカルはCD、ヴァイナルLP、両フォーマットで出て。ブッカー・T・ジョーンズとスティーヴ・クロッパーへのインタビューを盛り込んだデヴィッド・リッツの最新ライナーが添付されていて。さらにLP。180グラム重量盤で、なんと半透明グリーン・ヴァイナル仕様なのだ(Amazon / Tower)。これはかわいい。ときめく。

50周年記念盤が出たときボーナス追加された「グリーン・オニオン」と「キャント・シット・ダウン」の1965年ライヴ・ヴァージョンが今回省かれちゃったのはちょっぴり残念だけれど、まあ、それはそれ。特にアナログはオリジナル通りの曲数・曲順がうるわしいもんね。

すべてがごきげんです。ごきげんに違いない。今日、仕事終えて出先から帰宅したら届いてるかな。ワクワク。楽しみ!

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