Disc Review

Home Again: Live from Central Park, New York City, May 26, 1973 / Carole King (Sony)

ホーム・アゲイン:ライヴ・フロム・セントラル・パーク、ニューヨーク・シティ1973年5月26日/キャロル・キング

キャロル・キングが1973年5月26日、ニューヨークのセントラル・パーク内にある野外イベント会場“ザ・グレイト・ローン”に推定10万人の観客を集めて行なったフリー・コンサートのことは、きっと熱心なファンならば誰もがご存じのことだと思う。

公演直後から、このコンサートの映像と音が撮影/レコーディングされたことは伝えられていて。いつか出るだろうとファンの間でも期待が高まっていたのだけれど。結局そのときの音源のうち世に出たのは1993年に編まれたボックスセット『私花集(A Natural Woman: The Ode Collection 1968-1976)』に収められた「ビリーヴ・イン・ヒューマニティ」1曲のみ。どうなってるんだろうなぁ、もう出ないのかなぁ…と、誰もが半ば諦めかけていたところ。

去年の4月、驚愕のニュースが! なんとサードマン・レコードが同レーベルの“ヴォルト・パッケージ”シリーズの一環としてその1973年セントラル・パーク公演の模様を『ホーム・アゲイン』なるタイトルの下、2LP(ライヴ音源)+7インチ(ルーシー・ダカスによるキャロル・キング・カヴァー)+DVD(ライヴ映像)のセットで限定リリースしたのでした。慌てたファンの方も多いはず。ぼくは思いきり出遅れてゲットできずじまい。がっくりでした。オークション・サイトとかで、まあ、そこそこの値段で売っているので、どうしようかなぁ…と悩んでいたら。

なんと今年になってその映像の一般公開が決定。アメリカでは1月19日にプレミア試写会が催されて、キャロルさんのお誕生日である2月9日からはザ・コーダ・コレクションを通して公開スタート。まだ映像のほうはUS限定なので残念ながら日本からは見られないのだけれど。(追記:日本ではまだ見られないと思っていたら、なんと3月26日(日)の午後4:00から、WOWOWでオンエアが決定しましたー! うれしい!)

ちなみに音源のほうは2月10日に日本でも配信スタート! サードマンのリリースをゲットしそびれたぼくも晴れて全編聞くことができました。ということで、本ブログでもさっそくご紹介。なんでこれまでお蔵入りさせていたんだという感じの、まじかっこいい仕上がりなので、何はともあれサブスクのストリーミングでぜひチェックを。

先週木曜日、スロウバック・サーズデイ恒例のプレイリストでキャロル・キングを取り上げたときにも書いたことだけれど。キャロルさんの場合、1971年にリリースした傑作アルバム『タペストリー(つづれおり)』がたくさんの音楽ファンから愛されすぎて(笑)、おかげでその後のアルバムたちがすっかりかすんでしまっているというか。力作も多いのに、語られることが本当に少ないというか。その力作のひとつが1973年にリリースされた『ファンタジー』というアルバムだ。

順を追って流れを軽く振り返っておくと。まず1971年に『タペストリー』が超特大ヒットを記録して。でも、キャロルさんはその大ヒットに甘えることなく前進。まだ『タペストリー』がチャートを席巻していた1971年暮れ、早くも次なるソロ・アルバム『ミュージック』をリリースした。そこに収録されていた「スウィート・シーズンズ」や「ブラザー・ブラザー」といった曲には、当時“ニュー・ソウル”と呼ばれた類の新感覚のソウル・ミュージックからの影響が色濃く表われ始めていた。

続く1972年末リリースのアルバム『喜びは哀しみの後に(ライムズ&リーズンズ)』では、歌詞の面でそれまで以上に個的/内省的な物語を聞かせるようになっていたものの、音楽面ではそれまでのシンプルかつアコースティカルな音作りから、より厚く緻密なアンサンブルを聞かせるように。当時の旦那さま、チャールズ・ラーキー(ベース)をはじめ、旧友ダニー・コーチマー(ギター)、ミズ・ボビー・ホール(パーカッション)らそれまでのアルバムでもおなじみだった顔ぶれに加えて、ハーヴィ・メイソン(ドラム)、デヴィッド・T・ウォーカー(ギター)、ジョージ・ボハノン(トロンボーン)らジャズ/フュージョン寄りの名手もミュージシャン・クレジットに名を連ねていた。

そして1973年6月。キャロルにとって最大の冒険作と呼ばれることになるアルバム『ファンタジー』が世に出る。このアルバムでのキャロルは、前作での試行錯誤をさらに一歩先へ進めていた。歌詞の面でもメッセージ性を強め、音楽面では従来以上にR&Bやジャズに接近。と、そんなアルバムがリリースされる直前の1973年5月26日、セントラル・パークで行なわれたのが本作に記録されたフリー・コンサートだ。『ファンタジー』のリリースに合わせ北米12都市を巡るコンサート・ツアーの一環だった。

まずコンサート前半、「ビューティフル」「なつかしきカナン(Been to Canaan)」「幸福な人生(Way Over Yonder)」「スマックウォーター・ジャック」「ホーム・アゲイン」「スウィート・シーズンズ」「イッツ・トゥー・レイト」…と、『タペストリー』の収録曲を中心に、『ミュージック』と『喜びは悲しみの後に』からもそれぞれ1曲ずつ、一部ホーン・セクションを交えつつも基本的にはキャロルさんがピアノの弾き語りソロで聞かせて。

コンサート後半に突入するところでバックにバンドが登場。キャロルさんはMCで“デヴィッド・T・ウォーカー・バンド”と紹介しているけれど。デヴィッド・T・ウォーカー(ギター)、クラレンス・マクドナルド(ピアノ)、チャールズ・ラーキー(ベース)、ハーヴィ・メイソン(ドラム)、ミズ・ボビー・ホール(パーカッション)、トム・スコット(サックス)、マイク・アルトシュル(サックス)、ジョージ・ボハノン(トロンボーン)、リチャード・ハイド(トロンボーン)、ジーン・ゴー(トランペット)、オスカー・ブラシール(トランペット)という錚々たる顔ぶれがステージ上に勢揃いだ。

で、いよいよリリース目前の新作『ファンタジー』のお披露目セットへと突入。アルバム冒頭を飾る「ファンタジー・ビギニング」からラストの「ファンタジー・エンド」まで、アルバムの収録曲13曲のうち10曲をほぼ曲順通りに生演奏で聞かせる。バンドの面々はもちろん、キャロルさんのピアノ演奏も含め、スタジオ・ヴァージョン以上にスリリングで躍動的な演奏が素晴らしい。

このセントラル・パーク・コンサートのふた月後、モントルー・ジャズ・フェスで録画された、ほぼ同メンバー、同セットリストの映像作品『ライヴ・アット・モントルー1973』を本ブログで紹介したときにも書いたことだけれど。それまでの諸作に比べるとあまりいいセールスをあげられずじまいに終わった『ファンタジー』ながら、商業的にはともかく、その後のミュージシャン仲間に与えた音楽的影響の面ではとてつもなく大きな1枚だった。

そんなキャロルさんの意欲が存分に発揮されつつも、なぜか半世紀もの間あえなくお蔵入りしていた本ライヴの意義というか、重要性というか、そういうものもまた改めてじわじわ沁みてくるのでありました。当時すでに西海岸在住だったキャロルさんですが、ご存じの通り出身はニューヨーク。1960年代ブリル・ビルディング・ポップの作り手として若いころから裏方として大活躍していたわけで。そういう意味では故郷に錦を飾った瞬間の記録でもあり。いろいろと泣けます。

でもってライヴのほうは、オーラス、もうこれしかないという「君の友だち(You’ve Got a Friend)」の弾き語りで幕。日本でも早く何らかの形での映像一般公開、ヒラにお願いいたしますー! それまでは(追記:WOWOWで初放送される3月26日までは)本音源をストリーミングで聞いたり(フィジカルは5月ごろに出るみたい)『ファンタジー』聞き直したり、モントルーのライヴ見直したりしながらつなぎますー。

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