クライム・アボード・マイ・ラウンダバウト!~ザ・ブリティッシュ・トイタウン・サウンド1967-1974/ヴァリアス・アーティスツ
FMヨコハマで放送中の『otonanoラジオ』を一緒に作っている超プログレ・マニア、鮎澤くんが、先週末、「グレイプフルーツ・レーベルから出たバロック・ポップのコンピ買っちゃいましたよ」とか言っていて。
彼は店頭でゲットしたのかな。ぼくはWEBショップで注文していて。ブツが未着だったもんで、すごくうらやましかったです。やっぱ早く手にしたければ店頭がいちばんってことか。早く届かないかなーと心待ちにしていたら、ようやく週明け届きましたー。
平凡な郊外での生活を送るありふれた人物たちが織りなす、穏やかで、しかしどこか幻覚的な歌詞と、クラシカルな要素も効果的に取り入れた奥深い音像とが印象的なビートルズの大傑作曲「ペニー・レイン」あたりを源流に広まったと言われているサイケデリック時代のとびきりカラフルでちょびっとアシッドな英国流ポップ・サウンド集。
日本では確かに“バロック・ポップ”と総称されることも多いジャンルだけれど、海外でバロック・ポップというとビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』とか、フィル・スペクターの一連の作品とか、バート・バカラックものとか、クラシカルなオーケストラ・アンサンブルを取り入れた米国ポップスまで広く包括するジャンル名として機能していたりして。ちょっとニュアンスが違う。“ソフト・ロック”とか“AOR”とか、日本で勝手に違うイメージの下で定義づけされながら広まったジャンル名のひとつって感じかも。
英米ではこの種のサウンド、“トイタウン・ポップ”と呼ばれているのだとか。英国のライフスタイルや伝統文化、つまりエドワード・リアやルイス・キャロル、オスカー・ワイルドらの著書とか、BBCの子供向けラジオ番組『リッスン・ウィズ・マザー』とか、往年の人気スター、ジョージ・フォーンビーやロード・キッチナーらの懐かしい音楽とか、そういうものを底流にしのばせたポップ・フォーマット。そうしたどこかノスタルジックな眼差しと、サイケ時代ならではの漠然と未来を見据えるそれとが混在する、なんとも魅力的な音楽スタイルだ。
米国のバブルガムものと近い感触も漂ってはいるのだけれど、そうしたとことん外向きで陽気なサウンドの要素も取り込みながら、どこか英国ならではのダウナーかつ内省的な肌触りを感じさせるところがミソ。当時のブリティッシュ・ポップ・シーンならではの架空のスタジオ・ユニット、フルーツ・マシーンが、モンキーズでおなじみのハリー・ニルソン作品「カドリー・トイ」をカヴァーしたヴァージョンとかも入っているのだけれど、これとか好例かも。ほぼオリジナル通りの展開ながら、なんだかどこかほのかにウェットというか、ちょい重めというか。お国柄。いわゆる“サンシャイン・ポップ”とか“ハーモニー・ポップ”とか呼ばれる1960年代のポップ作品群と呼応するような形で存在するユニークなサブジャンルだ。
そんな“トイタウン・ポップ”と呼ばれる多くの楽曲群から、ヒットしたもの、全然ヒットしなかったもの、レア曲、未発表曲など全87曲を一気にまとめあげた全長4時間に及ぶCD3枚組が本作『クライム・アボード・マイ・ラウンダバウト!~ザ・ブリティッシュ・トイタウン・サウンド1967-1974』だ。
前述した「ペニー・レイン」に触発されるようにして、当時の英国ポップ・シーンに次々生まれた、つまり、ちょっとクラシカルなアンサンブルをフィーチャーしつつ、なんでもない日常を送る人の内省を、どこかおとぎ話のように切り取った小品たち。
本アルバム・タイトルの由来ともなっているジェフ・リン率いるアイドル・レイス、若き日のデヴィッド・ボウイ、本格デビュー以前“ギルバート”名義で活動していた時期のギルバート・オサリヴァン、田舎町の暮らしを皮肉っぽく描かせたら天下一品のキンクスなどをはじめ、カレイドスコープ、ピカデリー・ライン、ハード、キース・ウェスト、ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンド、ハーモニー・グラス、スペンサー・デイヴィス・グループ、トニー・リヴァース&ザ・キャスタウェイズ、ブロッサム・トーズなど。多彩な個性が次々登場してめくるめく屈折ポップ・ワールドを堪能させてくれる。マーク・ワーツの「ティーンエイジ・オペラ」プロジェクトからの未発表曲とかも収められている。
まだちゃんとは読んでいないけれど、1曲ごとの詳細な解説が掲載された48ページのブックレットもうれしい。サブスクのストリーミングだと全58曲、全長2時間半ちょい。だいぶ収録曲が少ないし、ブックレットもないし。やっぱフィジカルをゲットしたいところです。11月下旬には国内盤(Amazon / Tower)も出る予定。