ファンタジー・ゲイトウェイ/クコ
ぼくにとってはビーチ・ボーイズのウィルソン三兄弟の生まれ故郷、米カリフォルニア州ホーソーン出身って、もうその一点だけでものすごく気になって聞き始めたベッドルーム・ポップ系シンガー・ソングライター、クコ。本ブログでも2019年にメジャーからの初フル・アルバム『パラ・ミ』を紹介したことがあったけれど。それ以来となる3年ぶりの新作アルバムが届けられた。
『パラ・ミ』のときは21歳で、まだ青く、どこかつたない感触がまた独特のドリーミーでドラッギーなムードを生み出していたのだけれど。あれから3年。まあ、まだ若いとはいえ、だいぶ成長して、ずいぶんと確信に満ちた音作りを聞かせるようになった。
本名がオマー・バノスということからもわかる通り、この人、メキシコ系のアメリカ人で。今回はそうした自身のルーツを改めて意識し探求するために、両親の故郷であるメキシコでアルバム制作を行なったのだとか。
ということで、曲によってはメキシコのベッドルーム・ポップ/サーフ・ロック系シンガー・ソングライター、ブラッティことジェニー・フアレスとか、新世代ノルティーニョ系のアドリエル・ファヴェラとか、ダニーラックスとか、当地の若い個性がデュエット・パートナーとして参加。
歌詞は全編英語だったり、全編スペイン語だったり、英語・スペイン語のちゃんぽんだったり。けっこう真っ向から自身のルーツに対峙しつつ、きっちり今の時代に呼吸している感じの世界観を作り上げている印象です。メキシカン・テイストをまぶしたタイラー・ザ・クリエイター、みたいな? アドリエル・ファヴェラとの「シッティング・イン・ザ・コーナー」にはなんとケイシー・マスグレイヴスもゲスト参加。3人でヴォーカルを交錯させつつ、なかなかにエキゾチックな音宇宙を届けてくれる。
曲によってはお得意の、というか、得意というほど上手ではない独特のトランペットも過去作に引き続き使われているのだけれど。言われてみればこのトランペットってのもメキシコふうというか、マリアッチふうというか…。なるほどねぇ。それが妙にポップでサイケなテイストをもたらしていて、面白い。
歌詞も、まだしっかり把握しきれてはいませんが、面白い。アルバム序盤を飾る「コーション」って曲は、自分の胸のうちの悩みを仲間にぶつけないことを決意し、自分自身を現在から切り離す…みたいなことを歌っていて。いきなり考えさせられるし。「パラフォニック」って曲では、ドリーミーな音像の下、幻覚の中に身を置きながら“すべてがクラッシュしても驚かないよ/目を閉じればいいんだ”とか達観したこと歌っていたり。
ブラッティとのデュエット曲「フィン・デル・ムンド」は全編スペイン語。なもんでさっぱりわかりませんが(笑)。翻訳ソフトに頼ってみたら、世界の終わりをロマンチックに綴ったみたいな曲らしく。“ぼくたちはどうなってしまうのだろう/考えることをやめられない/ぼくたちに残された時間はどれくらい?/また会えるの?/もう何も残ってないのに”とか“そして今、ぼくは君と一緒にここにいる/見えにくくなる/君のいない現実…”とか歌っているようで。
いろいろ成長ぶりがうれしい1枚です。