テンプテーションズ60/ザ・テンプテーションズ
われらが“エンペラーズ・オヴ・ソウル”、ザ・テンプテーションズ。オリジナル創設メンバー、エディ・ケンドリックスやポール・ウィリアムスがその前身となるドゥーワップ・グループ、ザ・キャヴァリエズを結成したのが1955年。やがてオーティス・ウィリアムスが加わって、オーティス・ウィリアムス&ザ・シベリアンズとして初シングルをリリースしたのが1958年。
その後、何度かのメンバーチェンジやバンド名の変更を経て、テンプテーションズ名義でモータウン・レコードと晴れて契約を交わしたのが1961年5月15日。ということで、去年から今年にかけて、テンプスはその晴れの日から60周年のアニヴァーサリー・イヤー・キャンペーンを展開中なのだけれど。
クライマックスがいよいよやってきました。待望の新作アルバムの登場です。その名もずばり『テンプテーションズ60』!
テンプスとしてモータウンと契約した当初の顔ぶれは、エディ・ケンドリックス(テナー)、エルブリッジ”アル”ブライアント(テナー)、オーティス・ウィリアムス(セカンド・テナー)、ポール・ウィリアムス(バリトン)、メルヴィン“ブルー”フランクリン(ベース)。
対して、現在のテンプスは、創設直後に加入した最古参メンバー、現在80歳のオーティス・ウィリアムス(バリトン)を核に、1983年に加入したロン・タイソン(テナー)、1997年加入のテリー・ウィークス(セカンド・テナー)、2015年加入のウィリー・グリーン(ベース)、そして去年加入したトニー・グラント(テナー)という顔ぶれ。
脱退してしまったメンバー、亡くなってしまったメンバーなども多く、もはや全盛期を経験しているのはオーティス・ウィリアムスひとりとなってしまったけれど。かつて同じモータウン・レコードに所属しながら切磋琢磨してきたライバル・グループ、フォー・トップスが結成以来全くメンバー・チェンジなしに自分たちのスタイルを貫き通してきたのに対し、テンプスの場合は頻繁にメンバーを変え、リード・シンガーを変え、時代時代の新しいソウル・スタイルに対応してきたわけで。
そういう意味では現在のテンプテーションズも、もちろんいかにも彼ららしい独自の個性をたたえた鉄壁のテンプテーションズ。新作アルバムの冒頭を飾るオープニング・チューン「レット・イット・レイン」から、いきなりそんなテンプスの持ち味が炸裂している。K.スパークことカイル・ハンターをフィーチャーしてジャジーなヒップホップっぽい要素を大胆に導入。テンプスならではのソウルフルなファイヴ・パート・ハーモニーと絶妙に絡ませてみせる。1969年、デニス・エドワーズを新ヴォーカリストに迎えて放った衝撃の傑作アルバム『クラウド・ナイン』とか、1972年、「パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン」を含む『オール・ディレクションズ』を初めて聞いたときの感触とか、ふと思い出す。
かと思うと、そこから曲間なしで続く「ホエン・ウィー・ワー・キングズ」は、もう“これしかない!”という感じの、いかにも1960年代モータウンっぽいドラムのピックアップから、極上のファルセット・ヴォーカル&コーラスへ。プロデュースは1998年の名作アルバム『フェニックス・ライジング』を手がけたナラダ・マイケル・ウォルデン。エディ・ケンドリックス、メルヴィン・フランクリン、デヴィッド・ラフィン、デニス・エドワーズなど過去のメンバーたちの名前やヒット曲のタイトルなどを盛り込みつつ、テンプスの60年の歩みをたどり直すような歌詞も含めて、ごきげんなポップ・ソウルを聞かせてくれて。
お次は、「マイ・ガール」「ザ・ウェイ・ユー・ドゥ・ザ・シングズ・ユー・ドゥ」「シンス・アイ・ロスト・マイ・ベイビー」「ゲット・レディ」など数々の名曲をテンプスに提供してきた盟友、スモーキー・ロビンソンをゲストに迎えた「イズ・イット・ゴナ・ビー・イエス・オア・ノー」。これもやばい。
あと、面白かったのが、2018年の『オール・ザ・タイム』も手がけていたデイヴ・ダーリングのプロデュースの下、ヴィンテージ・トラブルの「マイ・ホウル・ワールド・ストップト・ウィズアウト・ユー」をカヴァーしていること。まさに、あの手この手。テンプス健在! という感じだ。
その他、デニス・ネルソン、T.C.キャンベルら堅実な顔ぶれも共同プロデューサー/ソングライターとして参加。彼らと組んで、オーティス・ウィリアムスやロイ・タイソンも自分たちの持ち味を活かした作品群をアルバムに提供している。現在の世界に向けた強烈なメッセージ・ソング「タイム・フォー・ザ・ピープル」、クールな三連グルーヴ「エレヴェーター・アイズ」、キャッチーに跳ねる「ユー・ドント・ノウ・ユア・ウーマン」、ムーディなバラード「コーリング・アウト・ユア・ネーム」、トロピカルな「アイ・ウォント・イット・ライト・ナウ」など、楽しめる楽曲ぞろい。
で、終盤、ナラダ・マイケル・ウォルデンが手を貸したスウィート&ポップな「ブレイキング・マイ・バック」を挟んで、アルバムのラストを飾るのは、グループがテンプテーションズという新しい名前を名乗る以前、1959年にオーティス・ウィリアムス&ザ・ディスタンツ名義でリリースしたシングル「カム・オン」の再演ヴァージョンだ。憎い構成。曲前にはグループの歴史を綴った長い語りも入っていて。
なんだかしみます。