レット・イット・ビー・ミー:アトランティック・レコーディングズ(1967〜1970)/ザ・スウィート・インスピレーションズ
横浜に移転したネイキッド・ロフトを舞台に、久々に有観客で開催できた昨夜のCRTイベント。本秀康くんを迎えての恒例ジョージ・ハリスンまつりでしたが。楽しかったですねー。まだまだ不安な時期、しかもJRの変電所爆発というアクシデントによる電車遅延のただ中、それでも会場まで足を運んでくださった多くのみなさんに心から感謝します。
もちろん配信でもむちゃくちゃ楽しいんですが。みんなで顔を合わせてお互いの表情を眺めつつ、同じ空間で、ひとつの音楽を共有しながらわいわい盛り上がるのはやっぱり格別。もろもろの状況が回復/改善して、CRTのようなレコード・コンサート・イベントをまたみなさんとともに普通に催すことができるようになるといいなぁ。心からその日を待ち望みます。
今年のCRTは年末にあと1回、たぶん配信で忘年会イベントをやる予定。詳細決まったらまたお知らせしますね。
ただ、ぼくにしてみるとちょっと遠方の、初めての会場で、楽しい催しをした翌朝なもんで。すっかり寝坊してしまった(笑)。ということで、今朝はちょっと軽めのオールディーズ系再発盤をご紹介。ザ・スウィート・インスピレーションズです。
ぼくがスウィート・インスピレーションズの名前を初めて知ったのは、中学時代の終わりのころかな。1971年だったと思うけど。エルヴィス・プレスリーのコンサート・ドキュメンタリー映画『エルヴィス・オン・ステージ(Elvis: That's the Way It Is)』が公開されて。そのライヴやリハーサルのシーンでエルヴィスをがっちりサポートする黒人女性バック・コーラス・グループとしてだった。
エルヴィスが1969年以降、改めてライヴ・シーンに本格復帰した際に実現したかったのは、ジェイムス・バートン、ロニー・タットらエルヴィス最後の黄金期を支えた腕ききリズム・セクションに、ゴスペルっぽいコーラス隊とフル・オーケストラが加わった大編成バンドによる南部の伝統的レヴュー形式によるコンサート。デラニー&ボニー&フレンズ、ジョージ・ハリスンのバングラデシュ・コンサート、あるいはマッド・ドッグス&イングリッシュ・マンなどと同趣向の試みに、あの時期エルヴィスはいち早くトライしていたわけだけれど。
その“ゴスペルっぽいコーラス隊”という部分を、白人男性グループのインペリアル・カルテットとともに担っていたのが、スウィート・インスピレーションズだった。それで興味を持っていろいろ調べてみたら、彼女たちはヴァン・モリソンの「ブラウン・アイド・ガール」とか、アレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」や「チェイン・オヴ・フールズ」をはじめとする一連のヒット曲とか、ダスティ・スプリングフィールドの「サン・オヴ・ア・プリーチャー・マン」とか、ジミ・ヘンドリックスの「真夜中のランプ(The Burning Of The Midnight Lamp)」とかにも参加して強力なコーラスを提供していて。しかも、自分たちでもそこそこヒットを放っていて。
と、そんな彼女たち自らのレコーディング音源を集めたアンソロジーが出た。1967年から1970年にかけて、スウィート・インスピレーションズがアトランティック・レコードに残した音源を集大成したCD3枚組だ。ホイットニー・ヒューストンのお母さんとしてもおなじみ、シシー・ヒューストン(旧姓ドリンカード)を中心に、シルヴィア・シェムウェル、エステル・ブラウン、マーナ・スミスという顔ぶれで活動していた時期のレコーディングが中心。その後、シシーに代わってアン・ウィリアムスが加入した時期の音源も一部あり。
彼女たちが同レーベルからリリースした5枚のアルバム、1967年の『スウィート・インスピレーションズ』、1968年にシシー・ドリンカード&ザ・スウィート・インスピレーションズ名義でリリースされたゴスペル・アルバム『ソングズ・オヴ・フェイス・アンド・インスピレーション』、同じく1968年の『世界は愛を求めてる(What the World Needs Now is Love)』、1969年の『スウィーツ・フォー・マイ・スウィート』、1970年の『スウィート、スウィート・ソウル』の収録曲に加えてアルバム未収録曲も12トラック。計66トラック。
キャノンボール・アダレイのヴァージョンでもおなじみ、ステイプル・シンガーズ作品をカヴァーした「ホワイ(アム・アイ・トリーテッド・ソー・バッド)」、エヴァリー・ブラザーズやベティ・エヴェレット&ジェリー・バトラーのヒットとして知られる「レット・イット・ビー・ミー」、ダン・ペン&スプーナー・オールダム作の代表曲「スウィート・インスピレーション」、ビー・ジーズのカヴァー「トゥ・ラヴ・サムバディ」、バカラック・ナンバー「世界は愛を求めてる」、アル・ヒブラー〜ライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディ」、エヴァリー・ブラザーズの「クライング・イン・ザ・レイン」、ケニー・ギャンブル&レオン・ハフ作「(ガッタ・ファインド)ア・ブランド・ニュー・ラヴァー」、そしてマッスル・ショールズ録音の「エヴィデンス」…という、全米チャート入りしたシングル・チューン9曲も、もちろん全部入っている。
これまでも彼女たちのアンソロジーはイチバン・レコードとか、リアル・ゴーン・ミュージックとかからも充実したものが出ていたけれど、ソウルミュージック/チェリー・レッドの下で編まれた今回の3枚組がいよいよ決定版って感じかな。ティム・ディリンジャーのライナーも興味深いです。