ミスター・ラック:ア・トリビュート・トゥ・ジミー・リード〜ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール/ロニー・ウッド&ザ・ロニー・ウッド・バンド
ぼくがジミー・リードというブルースマンの名前を初めて知ったのは、1970年のお正月に日本でもオンエアされたエルヴィス・プレスリーのテレビ特別番組『エルヴィス』(通称“‘68カムバック・スペシャル”)を通して。あの番組の、いわゆる“シット・ダウン・セッション”、アンプラグドの原型ともいうべきライヴ・シーンでエルヴィスはこれでもかという勢いで「ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ」という曲を繰り返し繰り返し歌っていたのだけれど。それが1960年にヒットしたジミー・リード作品のカヴァーだった。
エルヴィスは残念ながらこの曲の正規スタジオ・レコーディングを残さずじまいだったものの、そのテレビ・スペシャルのサウンドトラック・アルバムにはもちろん収録されていて。ぼくはそれで、本当に何度も何度も聞いた。ファンキーかつキャッチーなシャッフル・ブルース。エルヴィスが渋いフルアコ・ギターの低音弦でごきげんなリフを繰り出しながら歌い出すと、バックを固める旧友ミュージシャンたちが即座に食いついていく、そんな様子にもしびれたものだ。
いろいろ調べてみたら、このジミー・リードという人、ローリング・ストーンズを筆頭とする英国ビート・グループたちにも多大な影響を与えた米ミシシッピ出身のブルースマンであることがわかって。さらにエルヴィスが当時自身のシングルとしてリリースし、このテレビ・スペシャルの中でも歌っていた「ビッグ・ボス・マン」という曲もまたジミー・リード盤がオリジナルだったことを知った。
で、なんとかがんばってジミー・リードのアルバムを手に入れた。当時なかなか買うのも大変だった輸入盤で探してゲットした。この人、曲によってはベースレスの変則トリオ編成で演奏しているもんで。なんだか最初は物足りなく感じたりもしたものだが。グルーヴィーなシャッフル・ビートを繰り出すギターと、高音部で鋭いベンドをかましながら聞く者の胸へとストレートに突き刺さる泣きのブルース・ハープ、そして飄々としたヴォーカルが織りなす独自の世界には、ゆるさとソリッドさ、熱さと切なさなどが絶妙に交錯していて。なんとも言えない魔力が潜んでいた。もちろんぼくは、すっかりトリコになった。クセになった。
エルヴィスのお気に入り「ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ」や、エルヴィスだけでなくグレイトフル・デッドやボビー・ジェントリーもカヴァーしていた「ビッグ・ボス・マン」、そして代表曲「オネスト・アイ・ドゥ」、「エイント・ザット・ラヴィン・ユー・ベイビー」、「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」など、大好きだったなぁ。
と、そんなジミー・リードへの愛情を、我らがロニー・ウッドがどかんと爆発させたトリビュート・ライヴ・アルバムが本作。以前、チャック・ベリーへのトリビュート・ライヴ盤『マッド・ラッド〜ア・ライヴ・トリビュート・トゥ・チャック・ベリー』を出したとき、ロニーは今後数年にわたって自分に影響を与えてくれた音楽的ヒーローたちへのトリビュート・アルバム3部作を出していく、と宣言していたけれど。本作がその第2弾にあたる。
録音されたのはだいぶ前で。2013年11月1日、ロンドンの名門、ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ。ミック・テイラーも全面参加したロニー・ウッド・バンドを従え、ポール・ウェラー(「シェイム・シェイム・シェイム」に客演)、シンプリー・レッドのミック・ハックネル(「ガット・ノー・ホエア・トゥ・ゴー」に客演)、そしてこのコンサートの翌年に亡くなった重鎮、ボビー・ウーマック(「ビッグ・ボス・マン」と「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」に客演)らスペシャル・ゲストも迎え、ジミー・リードのレパートリーを全18曲、ストレートにぶちかましている。まじ、痛快だ。
今回も前作同様、アルバム・ジャケットのイラストレーションはロニー本人によるもの。ジミー・リードのパフォーマーとしての魅力、ソングライターとしての深みなどを再確認するには絶好のトリビュート盤だ。さあ、チャック・ベリー、ジミー・リードと来て、第3弾は誰だろう。やっぱ、マディ? ジョイント・ツアー経験もあるボ? あるいは…? いやー、楽しみ。