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Disc Review

Couldn’t Stand the Weather (MFSL Ultra Disc/One Step Pressing) / Stevie Ray Vaughan & Double Trouble (Mobile Fidelity Sound Labs)

テキサス・ハリケーン(MFSL ウルトラディスク/ワンステップ)/スティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブル

モービル・フィデリティ社が誇る究極のアナログ盤規格“ウルトラディスク〜ワンステップ”で往年の名盤を高音質復刻するシリーズ。これまでサイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』とか、ボブ・ディランの『血の轍』とか、イエスの『こわれもの』とか、ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』とか、サンタナの『天の守護神』とか、セロニアス・モンクの『モンクス・ドリーム』とか…。様々な名盤を30センチLP/180グラム重量盤/45回転/2枚組という豪勢な仕様で復刻したうえ、豪華なボックスに詰め込んで蘇らせてきた。

まあ、豪勢なだけに値段がものすごく高くて。100ドルから125ドルくらい。海外のサイトで買うと送料もけっこうかかっちゃうし。でも、日本のレコード屋さんでももろもろなんだかんだが加算されて2万円弱くらいになっちゃうし。ポップ音楽の値段じゃねーな…とぶつくさ言いながら。でも、ほんと、いい音で復刻されているもんだから。どうしても聞きたい盤はがんばって手に入れ続けているわけですが。

今年はこれからブラッド・スウェット&ティアーズの大傑作セカンド・アルバム『血と汗と涙』とか、発売50周年を迎えるキャロル・キングの『タペストリー』とか、ジャニス・ジョプリンの『パール』とか、そのあたりが出ることになっていて。お金ためとかなきゃ…って感じなのだけれど。

その前に、これも出てました。スティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルが1984年にリリースしたセカンド・アルバム『テキサス・ハリケーン(Couldn't Stand the Weather)』。1983年のファースト『テキサス・フラッド』が2019年、すでに180グラム45回転LP2枚組化ずみなので、それに続くmo-fi化ということになる。1月末の発売だったみたい。見逃してました。あぶないあぶない。このシリーズはすぐ売り切れちゃうので、気づいてよかった。

個人的な話になりますが。ぼくがレイ・ヴォーンに本格的に惹かれるようになったのもこのアルバムがきっかけだったからうれしさもひとしおだ。時代が1980年代に入って、音楽界にどんどんデジタルの波が押し寄せてきて。テクノだ、デジタル・ポップだ、ニュー・ウェイヴだ、ニュー・ロマンティックだ…と、そうした音楽ばかりがシーンを席巻し始めて。古い世代の音楽ファンであるぼくは当時、正直面白くなかった。もう昔ながらのアナログなロックなんか、なくなってしまうんじゃないかとすら悲観していたものだ。

そんなある日、1本のビデオ・クリップに出くわした。それがスティーヴィー・レイ・ヴォーンの「テキサス・ハリケーン」だった。タイトル通り、雨と風とスモークを正面から受けながら、時代遅れの長髪をなびかせて凶暴なギターを弾きまくるスティーヴィー・レイ・ヴォーン。古いやつ、と笑われるかもしれないけれど。やはり生の魅力。生の快感。最先端のテクノロジーを駆使したデジタル文化が音楽シーンさえも牛耳っていたあの時代に、そんな風潮と逆行するような肉っぽく、ルーツ・ミュージック寄りの快感をこんなに生々しく届けてくれる頼もしい男がまだいたのか、と。ぼくの胸は大いに高鳴ったものだ。

で、アルバムを買って。ノッケに入っていた短いインスト「スカットル・バッティン」の有名な超高速リフからいきなりやられた。コピーしようと挑んで、すぐ挫折した(笑)。かなりがんばったけど、レコードと同じテンポで弾こうと思うと今でも絶対に指がもつれる。でも、弾きたくなる。Eのシャープ・ナインスの響きもごきげん。そういう魅惑的なリフだった。クロートをうならせるテクニックと、シロートでも存分に楽しめる派手さと。両者を絶妙なバランスで共存させた得がたいギタリスト。それがスティーヴィー・レイ・ヴォーンだった。

アルバム全編にわたってそんな魅力が横溢していた。何のてらいも、ギミックもない、ひたすらストレートにブルースを弾きまくる。デジタル・サウンド全盛のシーンでふと忘れがちになっていた生身のパワーを思い起こさせてくれる強力な1枚だった。

Z.Z.トップにせよ、ジョージア・サテライツにせよ、ファビュラス・サンダーバーズにせよ。レイ・ヴォーンと同郷のテキサス出身アーティストの音を聞くたびに思う。テキサスってところは、州外の現在進行形の状況からまるっきり隔絶されてるみたいだ。実際にはそんなわけないのだが、でも、ついそう思えてしまう。彼らテキサス出身アーティストのアルバムには、それほどガンコに、脈々と、泥臭いブルース・フィーリングが生き続けている。

レイ・ヴォーンのアルバムも同様だ。時の流れからぽっかりと取り残されたような臭さを実にいい形で真空パックしたような仕上がり、とでも言えばいいのだろうか。シカゴ・ブルースからデルタ・ブルース、ブリティッシュ・ホワイト・ブルース、さらにはジミ・ヘンドリックスまで。あくまでもブルースに根差した様々なギター・スタイルを軽々と融合させながら、レイ・ヴォーンはヒューマンでパワフルでスピーディなグルーヴをひたすら人力でつむぎあげていく。爽快だ。

そういうアナログな音を聞くには、やはりアナログ盤がいいもんねぇ。もちろん当時買った普通のLPは今でも現役だけれど、mo-fiが出してくれちゃったら仕方ない。ちょっと奮発して手に入れて。で、やっぱ音がいいから。太いから。厚いから。盛り上がっております。堪能しております。

ただ、音質のために音溝をあまり密集させない仕様の45回転LPなので、片面に入る分数がものすごく少ない。各面2曲平均。B面に至っては8分くらいの「ヴードゥー・チャイル」1曲のみ、みたいな。このシリーズではいつも感じることだけれど、けっこう盤をひっくり返したりかけ替えたりする作業が慌ただしいです(笑)。アルバムの流れをなめらかに味わおうと思ったら、レイ・ヴォーンの早弾きにも負けない早業が必要かも。

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