エクスプローラー・テープス/エクスプローラー・テープス
昨日紹介したソロウズもそうなのだけれど。自分たちのやりたい音がレコード会社を通してちゃんとした形で世に出るかどうかというのは、もう、最終的には“運”だのみというか。特に新人アーティストにとっては、自分たちだけじゃどうにもできないところがあるよなぁ…と思うのだ。
今日取り上げるこのエクスプローラー・テープスというユニットもそんな感じ。これ、彼らが2015年にワーナー・ブラザーズ・レコードの下で制作しながらもあえなくお蔵入りしてしまっていたファースト・アルバムで。その発掘リリースということになる。
エクスプローラー・テープスのメンバーはテキサス州ダラス/フォートワース地区出身のソングライター・コンビ、ドリュー・エリクソンとマックス・タウンズリー。地元でバンド活動していたが、より大きなチャンスを求めてロサンゼルスへ。ソングライターとして音楽出版社と契約するか、バンドとしてレコード会社と契約するか、あわよくばその両方を狙って売り込みを開始した。
当初はいろいろ順調に事が進み、ロサンゼルスに到着してほどなく音楽出版社のワーナー/チャペル・ミュージックと契約が成立。デヴィッド&デヴィッドのデヴィッド・ベアウォルドをはじめ、ボニー・レイットやエイミー・グラントらへの曲提供で知られるディロン・オブライアン、リチャード・ペリーの弟子筋にあたるスティーヴ・リンジーら大物ソングライター/プロデューサーたちと共同作業しながら何曲か書いたりしていたところ、キース・アーバンが「テキサス・タイム」という曲(エリクソン/タウンズリー/オブライアン/リンジー作)をレコーディングすることになった。
これをきっかけに話がとんとんと進み、エリクソンとタウンズリーはエクスプローラー・テープスとしてもワーナー・レコードと契約。キース・アーバンの「テキサス・タイム」も手がけていた売れっ子、マイク・エリゾンドのプロデュースの下、ロジャー・マニング(キーボード)やアーロン・スターリング(ドラム)らのバックアップを受けつつ、2015年1月、3週間でファースト・アルバムを完成させた。
にもかかわらず、なにやらワーナー側の体制変更など、いろいろややこしいことがあったらしく。このファースト・アルバム『エクスプローラー・テープス』はあえなくお蔵入り。このほどオムニヴォア・レコードのスタッフが発掘するまで、ワーナーのテープ倉庫に眠り続けていたのだとか。
いやー、びっくり。もちろんぼくは今回初めて聞いたのだけれど、前述した腕ききソングライター陣とタッグを組んで書かれたいい曲ぞろいの1枚で。まあ確かに、けっして“今どきの音”というわけでないのだけれど、むしろ時流に左右されないポップ感覚に貫かれている…と解釈すべき手堅い仕上がりなのに。
こういう当たり前にポップな音というのがないがしろにされがちな時代なのかも。複雑な気分になる。まあ、それでも、6年の歳月を経て、なんとかこうして世に出ることになったわけで。ぎり、よかったかな、と喜びましょう。
さすが、ソングライター・チームによるアルバムという感じ。1曲ごと、実に手堅くキャッチーにまとめられた1枚だ。曲作りの方向性も“今どき”ではなく、フックがあって、コーラスがあって、ちゃんとブリッジもあって…みたいな、伝統的なソングライティングのノウハウをきっちり受け継いだもの。アレンジ的にも『ペット・サウンズ』的な音の積み方とか、ベースラインとかが随所に見受けられたり、ジミー・ウェッブ的な洗練と荒涼感との交錯も感じられたり、スティーリー・ダン的というか、スターバック的なコード感、ハーモニー感も聞き取れたり、ルパート・ホームズ的な素敵に乾いたアダルト感もあったり、フィリー・ソウル的なメロウネスも随所に盛り込まれていたり。
契約のきっかけとなった「テキサス・タイム」のセルフ・カヴァー・ヴァージョンもあり。ヴァイナルは12曲入り。CDは2曲追加の14曲入り。絶対にヴァイナルでほしいアルバムなのだけれど、このCDに追加されたうちの1曲、さりげないミディアム・ポップ・チューン「スティル・ラヴ・リンゼイ」とか、個人的にはむちゃくちゃ好きなもんで。CD買わないとかなぁ。あー、困った。どっち買おう。いまだ悩み続けちゅう。仕方ないので、とりあえずはストリーミングで全曲満喫しております。いい時代だ…。