ネイティヴ・サンズ/ロス・ロボス
1985年。ロス・ロボスが初来日したときのことだ。某音楽誌の仕事で彼らにインタビューすることができた。デヴィッド・イダルゴ(自分ではヒダルゴって発音してました)とセサル・ロサス(自分ではシーザーって発音)。まじ、気さくでいいやつらだった。地元ロサンゼルスのロック・シーンの話やら、ステージで使っている珍しいメキシコ産の楽器の話やら、ハイスクール時代の思い出話やら、いろいろな話が飛び出した。本当に楽しかった。
やがて、話題は彼らの音楽的ルーツへ。バディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、サニー&ザ・サングロウズ、ジー・ミッドナイターズ、リトル・ウィリー・Gなど、渋く刺激的なオールディーズ系アーティストの名前が次々飛び交った。CD時代が本格到来する前の話だ。まだまだオールディーズの再発レコードとかも世界的にそうたくさんは出ていなかった時代。でも、今ほどではないものの、日本ではそこそこ古い時代の音楽の再発盤も出ていて。なので、「そういうオールディーズのレコードだったら、日本でもけっこう再発されてますよ」と教えてあげた。
すると、サングラスにあごヒゲが印象的なロサスさんが身を乗り出した。
「らしいね。聞いてきた。なんでもバディ・ホリーのアルバムがオリジナルの形で全部再発されてるって話だけど…」
「あと、ハンク・ウィリアムスの全曲集ボックス・セットも」
「ジョー・ジョーンズの10枚組が出てるってのは本当?」
ヒダルゴさんも加わって大騒ぎだ。そのテの再発盤をたくさん扱っているレコード屋さんを紹介してあげたり、さらにひと盛り上がり。そのとき、たまたま持ちあわせていたオールディーズ再発LPシリーズのサンプル盤10セットを見せたら、また火が付いた。ぼくも選曲・監修に参加したオムニバス盤シリーズで。その収録曲を1曲1曲つぶさにチェックしては、「うん、これはいい選曲だ。でも、このアーティストだったらあっちの曲のほうがよかったんじゃないか。そういえば、こいつらの曲をコピーしてたこともあったなぁ…」とブツブツ。
あまりにもうれしそうなので、「もしよかったら差し上げますよ。ぼくはきっと、もう1セットもらえると思うから」と申し出たら、「ほんと!? いや、でもそれじゃ悪いよ。こんなにたくさん」と、いちおう遠慮してみせる。けれども、手放さないのだ。ヒダルゴさんもロサスさんも10枚のLPをしっかり握りしめたままニコニコしてるばかり。結局、ぼくは彼らのサインと引き換えにその再発LP10枚をプレゼントしたのでした。で、そのレコードをサカナに、ぼくたちはまたインタビューもそっちのけで30分以上オールディーズ談義に花を咲かせてしまったのだった。大笑い。
そんな35年くらい前の懐かしいひとときをぼくに思い出させてくれた1枚。ロス・ロボスの新作が届けられた。彼らが愛し、多大な影響を受けた地元ロサンゼルスのアーティストの楽曲をカヴァーしまくった“ルーツ・オヴ・ロス・ロボス”的な1枚だ。やばい。
取り上げている曲は、まず、1985年のインタビューでも名前が出て大いに盛り上がったイーストLAの人気バンド、ジー・ミッドナイターズの「ラヴ・スペシャル・デリヴァリー」。「マネー」のヒットでおなじみのバレット・ストロングにソングライターのドン・フアン・マンチャが提供した「ミズリー」。バッファロー・スプリングフィールドの「ブルーバード」。その中盤のアコースティック・ギターの印象的なソロ・フレーズに続いて、「ブルーバード」後半のバンジョー・パートではなく、「フォー・ホワット・イッツ・ワース」がメドレーで登場。続いて、のちにライ・クーダーのアルバム『チャベス・ラヴィーン』にゲスト参加して自ら再演したこともあるラロ・ゲレロ往年の自作ヒット「ロス・チューコス・スアベス」。ジャクソン・ブラウンの初期名曲「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」。パーシー・メイフィールドのスウィンギーなアーバン・ブルース「ネヴァー・ノー・モア」。
ここで本作中唯一のロス・ロボスによるオリジナル曲「ネイティヴ・サン」が挟まって。
で、後半。1985年に彼らに強制的にプレゼントさせられた(笑)再発LPにも入っていたザ・プレミアーズの「ファーマー・ジョン」(ロサスさんがサムズアップして、“テイスト・グッド!”ってニヤついていたっけ)。ラテン・ジャズの大御所ウィリー・ボボの「ディチョソ」。ビーチ・ボーイズの、なんと!「セイル・オン・セイラー」。WARの「世界はゲットーだ(The World Is A Ghetto)」。ブラスターズの「フラット・トップ・ジョイント」。そして、ザ・ジャガーズのインスト「ホエア・ラヴァーズ・ゴー」。
チカーノ・ロックあり、ブラウン・アイド・ソウルあり、フォーク・ロックあり、ルンバあり、ボレロあり、ローレル・キャニオンものあり、ジャンプ・ブルースあり、ラテン・ジャズあり、ラテン・ロックあり、パンクあり、エレキ・インストあり…。往年のロサンゼルスに渦巻いていたとてつもなく多彩な、雑多な、しかし何かしら統一感のある感触に貫かれた魅惑の音楽の雨アラレだ。ロス・ロボスも基本的にはオリジナル・ヴァージョンのフォーマットに最大限の敬意を払いつつ、でも、ここぞの局面では真っ向から自我を主張する、みたいな。なんとも理想的なカヴァー・アルバムに仕上がっている。
ロス・ロボスの何たるかを再確認するには絶好の1枚。いわば、彼らが届けてくれたごきげんなミックステープ? 楽しい。お試しください。