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Disc Review

High January / Marker Starling (Tin Angel Records)

ハイ・ジャニュアリー/マーカー・スターリング

日本ではこの4月アタマ、前作『トラスト・アン・アマチュア』(2018年)との2オン1CDフォーマットで独自にいち早くフィジカル化されていた新作アルバム。ストリーミングも含め、海外でも4月末にようやく正式リリースされたので、このタイミングで取り上げておきます。

カナダのポップ・マエストロ、クリス・A・カミングスが“マーカー・スターリング”名義で放つ、たぶん5作目。“マントラー”名義でアルバム・リリースしていたころも含めれば通算9作目ということになるのかな。

打ち込み基調の、ひたすらパーソナルな手触りの従来路線から少しだけ方向転換。イギリスでのライヴ・コンサートをバックアップしているメンバーたち——ジョー・カーヴェル(ベース)、ユアン・ロジャー(ドラム)、アンディ・ホワイトヘッド(ギター)らとともに編み上げたナチュラルなバンド・サウンドをじんわり楽しむことができる。

プロデューサーをつとめたハイ・ラマズのショーン・オヘイガンや、エンジニアリングを手がけたステレオラブのレティシア・サディエールも演奏やゲスト・ヴォーカルで参加。録音場所も前作のベルリンから、今回はロンドンへ。様々な変化を積極的に演出した感じの1枚だ。

といっても、じゃ、ハイ・ラマズお得意の管弦オーケストレーションのようなものがこれ見よがしに導入されていてびっくり…とか、そういうわけでもなく。あくまでもコンボ・バンド編成にこだわりながらオヘイガン独特の、ふくよかな“キャビネッセンス系”アンサンブルを実現/構築するというアプローチ。それでいて、繊細さと穏やかさに貫かれた曲想と、年のAMポップ的なキャッチーさとがマジカルに交錯するマーカー・スターリングならではの音世界の魅力もまったく薄れていないという素晴らしさ。

カミングスももう50歳代半ば。別に若い世代の音楽ってわけじゃないけれど、この人なりの“今”と“昔”がイマジネイティヴに交錯している感じがいい。過去の様々な遺産をいかに今の空気感と共鳴させるかという面で、カミングスが起用したオヘイガンとサディエールという人選は世代的にも実に的確だった。

今様のソフト&メロウというか、アダルト・コンテンポラリーというか、ヨット・ロックというか。とはいえ、親しみやすい肌触りをなんとなく表層的には感じさせつつも、同時に、実は誰にも心を許していないかのように内省的で。ロマンティックなようでいて、でも、ひたすら深い憂鬱に沈み込んでいるような。それでいて、その微妙にまどろんだ感じの距離感がむしろ催眠的というか、催淫的というか…。

個人的にはマントラー〜マーカー・スターリングの過去の諸作中、今回のアルバムがいちばん好きかも。正式な収録曲は8曲。そこに昨年のBBC『マーク・ライリー・セッションズ』でのスタジオ・ライヴ4曲がボーナス収録されています。

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© 2020 Kenta Hagiwara