スパング・シスターズ/スパング・シスターズ
“シスターズ”とか名乗っているから女の子のバンドなのかと思ったら、英国ブリストルを本拠に活動するラシッド・ファークリとジュールズ・ギボンズ、二人の男性によるベッドルーム・ポップ・デュオ。自分たちのことを“sleazy duo”、つまり“いかがわしいデュオ”とか称しているひねくれたやつらだ。
3年ほど前、EPを出してデビュー。そのころは5人組だった。その後、ちょこちょこシングル出したり、ミニ・アルバム出したり。で、このほどリリースされた本作で編成が2人組に。どういう事情かよくわからないけれど、まあ、よくある流れというか。ものすごくよく言えば、スティーリー・ダンみたいな?(笑)
全9曲。うち2曲は短いインタールード。さらに1曲、同じくらい短いジングル的なポップ・チューンが含まれていて。全長20分。新ミニ・アルバムと言うべき1作だ。でも、デュオになって初のアルバム・リリースということもあってか、これをデビュー盤として強く打ち出している感じ。なので、心機一転の1枚、とこちらも新鮮に受け止めましょう。
バンドキャンプでチェックしてみると、影響を受けたアーティストや音楽としてヴェルヴェット・アンダーグラウンド、モータウン、ドクター・ドレと並んで、“日本のフォーク・バンド、はっぴいえんど”という記述もあって。
おー、はっぴいえんど。フォーク・バンドって括りが少々微妙ながらも、半世紀前に日本で地味に活躍していて、ぼくも当時リアルタイムにハマっていたバンド、はっぴいえんどに影響を受けた英国の若者たちがこの21世紀にいて、今様のベッドルーム・ポップを作って発信しているのかと思うと、なんだか感慨深くて。ぐっときちゃいましたよ。
というわけで、やはり細野晴臣を敬愛しているということでもおなじみのマック・デマルコとか、あるいはマイルド・ハイ・クラブとか、そういう連中に相通じる音世界。彼ら自身が影響を受けた存在として挙げている前出の例にこだわって言えば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの叙情的な前衛性とか、モータウン・サウンドに潜む繊細でメロウな側面とか、ドクター・ドレの強烈なグルーヴの背面に流れる深く内省的な感触とか、はっぴいえんどが提示してみせたサウンドの“行間”とか、そういったものを抽出してイマジネイティヴに組み合わせた感じ。
フィリー・ソウルっぽい要素もある。バブルガム・ポップっぽい要素も。ビーチ・ボーイズっぽい要素も。トッド・ラングレンっぽい要素も。中期ビートルズっぽい要素も。オルタナ・サイケというかアート・パンクというか、そういう要素も…。そうしたすべてを、時代性も地域性もすっとばしてかき集め、シニカルな毒をまぶした歌詞とともに、ちょっとひねくれたセンスで、柔軟に、へなちょこに、再構築したみたいな。
リリース元になっているレーベル“バスタイム・サウンズ”というのは、彼らがブリストルとロンドンで定期的にオーガナイズしているDJイベント、およびラジオ番組の名前でもあるのだとか。なるほど。そういうDJ的な音楽かな。気持ちいいです。