プロムナード・ブルー/ニック・ウォーターハウス
いわゆるレトロなんちゃらとか、ヴィンテージなんちゃらとか、そういう区分けの下で語られる人で。ぼくも2019年の春に出たセルフ・タイトルド・アルバムを本ブログで取り上げた際、“ヴィンテージ・ロックンローリン・ソウル”とか、テキトーにワケのわからないジャンル名を記していましたが(笑)。
その年の夏、何度目かの来日公演があって。東京のコットン・クラブに見に行きましたよ。最高だったなぁ。お客さんは数はものすごく少なかったけど、それにもめげず、ニックさんは飄々と、マニアックに、持ち前のオールディーズ愛を炸裂させながら、バンドの仲間たちとともに彼流のロックンロール〜R&Bサウンドを、タイトに、マニアックに、躍動的に、この21世紀の東京に響かせてくれたのでした。楽しかったなぁ。
そんなニック・ウォーターハウスの新作です。
去年はライヴ盤と、ザ・シーズの「プッシン・トゥー・ハード」のカヴァー・シングルをリリースしていたけれど、スタジオ・フル・アルバムとしては前述、2019年の『ニック・ウォーターハウス』に続く1枚。題して『プロムナード・ブルー』。5作目のスタジオ・アルバムだ。
今回も前作同様、マイケル・キワヌカ、セント・ポール&ブロークン・ボーンズ、デヴェンドラ・バンハートらとの仕事で知られるポール・バトラーが共同プロデュース。メンフィスで録音されている。
しかし、何というか、こう、売れる気があるのかないのか(笑)。ますますオールディーズ愛がマニアックに尖鋭化している感じで。ヴィンテージ・ソウルとか言っても、別にモータウンやるとか、スタックスやるとか、すでにそういうわかりやすい段階ではなく。チャック・ジャクソンとかジーン・マクダニエルズとかアーサー・アレクサンダーとかブルック・ベントンとか、そのあたりの名前が脳裏をよぎる感じのあの手この手というか。
ストリングス入りミディアムR&Bみたいな曲があったり、リーバー&ストーラーがこっそり書いていたようなマイナー調のノヴェルティものがあったり、トウィーターズの「マスカラ・ママ」みたいなマンボ・ドゥーワップがあったり、プリズナー・ソングみたいなやつがあったり…。
全編に配されたドゥーワップ・ベースの男性コーラスや、ルーズなホーン・セクションの使い方とかもぐっと渋みを増して。ハマり具合がずぶずぶ深みに突入しているというか。もはや聞き手など置いてけぼりというか。でも、このどこに向かっているのかすらすでにわからないマニアックな暴走ぶりがたまらんです。
アルバム・タイトルと連動しているらしき「ヴェリー・ブルー」って曲とか。最高。“君がぼくに笑いかける/物憂げに車のウィンドウにもたれて/とてもブルー/とてもグリーン/潮風/ざわめく木々/ああ、パシフィック”という、お前はエーちゃんか的な歌詞も泣けるし。レトロな響きのエレクトリック・ギターもいいし。それとリズミカルに受け応えするストリングスも素敵だし。おセンチでキュートなメロディも胸を締め付けるし。
置いてけぼり上等。こちらも勝手にどこまででも付いていきます。