Disc Review

Toronto Rock ‘N’ Roll Revival 1969 / Chuck Berry (Sunset Blvd Records)

トロント・ロックンロール・リヴァイヴァル1969/チャック・ベリー

音楽における、新しいとか、古いとか。そこんとこにやけにこだわる人、いますね。けっこういる。本ブログも含めて、機会があるたび、あちこちで書いたり発言したりしてきたテーマなので、改めて繰り返しませんが。

ざっくり言って、ぼくは音楽に新しいも古いもねーだろ、という立場。とはいえ、確かに物事が“古く”なったなと感じる瞬間とか、ないわけじゃなく。なんとなく、乱暴に言うと、10年から15年くらい前の文化が鬼門なのかなぁ。どんな分野でもそうだと思うのだけれど。20年、30年、40年…と経っちゃえば、もう全部一緒というか(笑)。10年程度の違いは吸収されちゃうというか。

15歳と25歳って、ものすごく違う気がするけど、55歳と65歳は、まあ、本人の意識はともあれ、周囲から見ればほぼ同じ、みたいな?(笑) なので、音楽の世界で新しいとか古いとかにやけにこだわり続ける人ってのは、まだ音楽を聞き始めて10年程度なのか、あるいは物事を常に10年くらいの短いスパンでのみ考えているのか。

ロックンロールという文化そのものにも、そういう時期があった気がする。ロックンロールの誕生は1952年くらいと言われていて。世界的に認知されたのが1955〜56年くらい。1964年に人気爆発したビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でシーンを揺るがしたのが1967年。ウッドストック・フェスが1969年…。

このあたり、当時ニュー・ロック〜アート・ロックと呼ばれた新世代のロック音楽が大人気を博していた1969年ごろに振り返るロックンロール黎明期というのは、だからほんの15年くらい前のことでしかないのに、なんだかやけに古い感じがしたのかも。

この年の9月13日、カナダのトロント大学構内のヴァーシティ・スタジアムで行なわれた野外音楽フェスティヴァルがあって。そこにはジョン・レノン&ザ・プラスティック・オノ・バンド、ドアーズ、シカゴ、トニー・ジョー・ホワイト、アリス・クーパーといったコンテンポラリー・アクトとともに、チャック・ベリー、ジェリー・リー・ルイス、ボ・ディドリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセントらロックンロールのオリジネイターたちが大挙出演。ということで付けられたコンサート・タイトルが“トロント・ロックンロール・リヴァイヴァル1969”。

1969年の段階で初期ロックンロールはすでに“リヴァイヴァル”扱いだった、と。このコンサートの模様は、1971年にD.A.ペネベイカー監督が『スウィート・トロント』という映像作品にまとめて、わりと早い段階で日本でもテレビ放映されたものだ。もちろん目玉はジョンとプラスティック・オノ・バンドで。彼らの演奏中心の構成になっていたのだけれど、ジョンたちが出てくる前に、ボ・ディドリー、ジェリー・リー・ルイス、チャック・ベリー、リトル・リチャードの演奏がそれぞれ1曲ずつ入っていて。

当時高校生だったぼくは大いにショックを受けたものだ。いわゆるオールディーズもののブームが日本でも盛り上がるのは1974年くらいになってからのことだけに、まだロックンロールに関する知識もたいして持ち合わせておらず、彼らロックンロール・オリジネイターたちの偉大さ、重要さをちゃんと実感できていなかったころの話なのだけれど。それでも、彼らがビートルズ以降のロック新時代にどんなふうに対応していいのかよくわからない手探り状態のまま、しかし、とてつもなくやばい迫力をたたえながら、全員、それぞれのやり方で、やさぐれ気味にパフォームしている様子がめちゃくちゃ印象的だった。

そんな伝説のオリジネイターのひとり、チャック・ベリーの当フェスにおけるステージ全貌を収めたライヴ盤が、今日ご紹介する『トロント・ロックン・ロール・リヴァイヴァル1969』だ。まあ、このときのライヴの模様は映像でもレコードでも、ブートも含めて過去何度も世に出てきてはいる。今回は独ベア・ファミリーが2014年に出した15枚組ボックスに入っていたのと曲数は一緒。ただし、曲順が違っている。どっちが正しいのかなぁ。いずれにせよ、全長1時間5分強。たぶんこれが全貌ってことでいいのだろう。アナログ・マスターからのトランスファーだとのこと。

ベリーはこのとき42歳。当時、ベリーのツアーというか興業というかに帯同していたリズム・ギタリスト、ロン・マリネリとともに、トロントで現地調達されたニュー・ロック世代の5人組バンド“ニュークリアス”のメンバーがバックアップ。「ロックンロール・ミュージック」「スクール・デイ」「ジョニー・B・グッド」など代表曲の数々から、やがて1972年にシングル・ヒットすることになるノヴェルティ・ソング「マイ・ディンガリン」、ブルース「アイム・ユア・フーチー・クーチー・マン」、さらにはライヴではおなじみ、スパニエルズのドゥーワップ・バラード「グッドナイト・スウィートハート・グッドナイト」のフランス語歌詞交じりの替え歌「ボンソワール・シェリー」まで披露している。

この人の場合、いつもバンドが現地調達ってことで。どうしても即席っぽい、雑なアンサンブルになってしまうわけだけれど。それも含め、こうしたぐしゃぐしゃな混沌期を経て、ロックも、ロックンロールも、そしてアーティストたちも雄々しくサヴァイヴしてきたんだな、という思いを新たにできる記録です。

ベリーの全身から放たれる、どうにもカタギ者じゃないムードが、まじ、たまりませんよ。

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