プット・アップ・ザ・ライツ/ザ・バード&ザ・ビー
今年もなんだかんだ、ずいぶんとたくさんのクリスマス・アルバムが出た気がする。パンデミックのせいもあって、とても簡素に、ギターやピアノだけで静かに賛美歌やクリスマス・キャロルを歌い綴った盤とかも多かった。それはそれで素敵だった。
近年は日本でも年末商品としてクリスマス・アルバムがすっかり定着。ロック系アーティストもアイドルも演歌歌手も、誰もがクリスマス・ソングを歌う。大安売り。玉石混淆。雑誌を見ても、今年はさすがに自粛気味とはいえ、例年だと“聖夜には恋人と二人でチャペルでミサを”とか。けっこうお気楽な特集記事が組まれたりしていて。一時はぼくも、おいおい、いいのかよ…と思ったものだ。キリスト教とかと無関係な人が大半を占める日本で、これはおかしいじゃないか、と。
が、1990年代半ば、文字通り古今東西のクリスマス・ソングを集めた素晴らしいコンピレーションCD『オール・アバウト・クリスマス』に接して考えが変わった。選曲/監修をなさった中村とうよう氏のライナーに“クリスマスには東と西、南と北が混ざり合っている。キリストの誕生日に非キリスト教徒の日本人がドンチャン騒ぎするのはオカシイ!なんて目くじら立てるやつのほうが、なんにもわかってないのだ”という一文があって。あ、そうなのか、ぼくは何もわかってなかったんだ、と一発で説得されてしまったものです。
やっばりクリスマスものはいい。なんか、マジカルなパワーがあって。聞いているだけで本当に幸せな気分になれたりする。なもんで、一時はクリスマスものは全部聞いてやる、みたいな勢いで徹底的に追いかけていたものだ。ただ、近年は数が出すぎることもあって、あまり熱心に聞き込まなくなってしまった。それでも、やっぱり毎年1枚くらいはクリスマス・アルバムを紹介しておこうかな、と。
去年は、ロス・ロボスのご陽気な、それでいてどこかセンチメンタルに響くクリスマス・アルバムを紹介したっけ。今年はこれにします。10月にデジタル・リリースされたザ・バード&ザ・ビーのクリスマス向けミニ・アルバム。
ご存じ、ロウエル・ジョージの娘さんとしてもおなじみのシンガー・ソングライター、イナラ・ジョージと、ポール・マッカートニー、ケンドリック・ラマー、アデル、リリー・アレンなどとの仕事で知られるプロデューサー/コンポーザー、グレッグ・カースティンによるポップ・デュオ。去年、ヴァン・ヘイレンのカヴァー・アルバムを出したとき、本ブログでも紹介しましたが。
そんな彼らが別の切り口でリリースした新たなカヴァーもの、と考えてもいいかな。もちろん、全8曲中、「ユー・アンド・アイ・アット・クリスマス・タイム」と「メリー・メリー」という、イナラ&グレッグのペンによるオリジナル・クリスマス・ソングも2曲入っているのだけれど。
残る6曲はカヴァー。メル・トーメ作の超名曲「クリスマス・ソング」、ルロイ・アンダーソン作のご存じ「そりすべり(Sleigh Ride)」、クリスマスの定番曲「ひいらぎかざろう(Deck the Halls)」、デイヴ・グロールのドラム(!)をフィーチャーした「リトル・ドラマー・ボーイ」、ヴィンス・ガラルディ作『スヌーピーのメリークリスマス(Charlie Brown Christmas)』より「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」、そしてこれまた定番「ハレルヤ・コーラス」。
この夏、パンデミックの自粛生活の中、グレッグがホーム・スタジオでオケを録って、それをイナラにリモートで送って、今度はイナラがクロゼットにこもってガレージバンドで歌入れして…。そんな形でレコーディングされた1枚だとか。世界的パンデミックがあって、ブラック・ライヴズ・マター運動があって、ありえない混乱に満ちた大統領選があって。そんな夏のただ中に、クリスマス・ソング/ホリデイ・ソングを録音するのは本当に奇妙な体験だったと二人は語っている。でも、その作業が緊張に満ちた日々からの救いになったことも事実だ、とも。
適度にほんわかしていて、適度にテンション感やオルタナ感も漂っていて、ほんと、いい塩梅です。ザ・バード&ザ・ビーは何年か前にも「ウィッシズ」という素敵なクリスマス・ソングをリリースしてくれたことがあって、それも愛聴させてもらったものだけれど。今年はこのミニ・アルバムでホーリー気分満喫させてもらいます。
というわけで、基本、平日は毎日更新みたいな形で日々ニュー・リリースの紹介をしてきました本ブログ。ちょっと世の中のペースよりは早いかもしれませんが、今年は今日で通常営業というか通常更新を終了しちゃいます。年末にぎりぎり間に合わせないといけない原稿も山積みで(笑)。年末くらいちゃんとそっちに本腰入れます。いつから再開するかは、またまたテキトーなもんで全然決めていませんが、年が明けたらまたブログ書き始めますね。
今年もお世話になりました。メリー・クリスマス。そして、よいお年を。来年もよろしく!