メイン・ストリート(リマスター&エクスパンデッド・エディション)/ロイ・ウッド&ウィザード
ポップ・ヒストリーを振り返ってみると、意欲的に制作されながらも様々な要因からあえなくお蔵入りしてしまった“幻のアルバム”ってやつがけっこうたくさんある。のちに晴れて発掘リリースされたものも含めて、ちょっと思いついたところを並べてみると。
ビーチ・ボーイズの『スマイル』や『ランドロックド』『アダルト・チャイルド』などを筆頭に、ニール・ヤングの『クローム・ドリームズ』、ブルース・スプリングスティーンの『ザ・タイズ・ザット・バインド』、バッドフィンガーの『ヘッド・ファースト』、レズリー・ゴアの『マジック・カラーは恋の色』、スタイル・カウンシルの『モダニズム:ア・ニュー・ディケイド』、ザ・フーの『ライフハウス』、ピンク・フロイドの『ハウスホールド・オブジェクツ』などなど…。
もちろん、何でもかんでも復刻されるCD時代に突入したこともあって、そういう未発表音源にスポットが当たり、前述した通り時を経てついに発売が実現して、いやー、驚いた、これがなんでお蔵入りしていたんだろう…みたいな受け止めの下、新時代に再評価されるという、なんというか、ファンにしてみるとうれしいような、もどかしいような、そういう発掘リリース劇もあったりして。ポップ・ミュージックをめぐる評価ってのは、時代時代で大きく変化する水物だなという思いを新たにしたりするのだけれど。
そういう幻のアルバムのひとつだったのが、今日紹介するロイ・ウッド/ウィザードの『メイン・ストリート』だ。ロイ・ウッドといえば、ザ・ムーヴ、エレクトリック・ライト・オーケストラ、ウィザードなど、様々なバンドを率いて活動してきた英国きってのポップス怪人。米国ポップスの奇才、フィル・スペクターのフォロワーとしてもおなじみだけれど、スペクター・フォロワーは数多くいるものの、ロイ・ウッドはサウンド面ばかりでなく、スペクター本人のとてつもない“狂気”のようなものまできっちり継承した希有な存在だった。
で、そんなイカれたロイ・ウッドはELOから離脱後、ウィザードを結成して1972年にハーヴェスト・レコードで活動開始。1973年には「シー・マイ・ベイビー・ジャイヴ」と「エンジェル・フィンガーズ」を連続で全英1位に送り込むなど、爆発的な人気を博した。ファースト・アルバム『ウィザード・ブルー』もそこそこヒット。
続いて彼らは、自分たちの多層的な魅力を伝えるため、ポップな1枚とマニアックな1枚とを組み合わせた2枚組アルバムの制作を目論んだ。この計画は結局流れて、まず1974年にポップな側面にスポットを当てた『イントロデューシング・エディ・アンド・ザ・ファルコンズ』をリリース。架空のバンド、エディ&ザ・ファルコンズを主人公に、ロイ・ウッドのロックンロール/オールディーズ・ポップに対する愛情と敬意と屈折とを炸裂させた傑作で、ファースト・アルバム以上のヒットを記録した。
で、それに続いて、もうひとつ。マニアックなほう。そのレコーディングが1975年から76年にかけて行なわれたのだけれど。ロイ・ウッドという人は、まあ、変人だし、勝手な人だし。バンドを長続きさせられるわけもなく。ウィザードもこの時期、すでにバンド内に不協和音が流れていたらしい。ということで、制作途上からはウッド3作目のソロ・アルバムとして『WIZZO』なる初期タイトルの下、作業が続けられた…とする説もある。
いずれにせよ、こうして完成に至ったのが『メイン・ストリート』だ。それまでの彼の個性とはひと味違う、ぐっとジャズ寄りの色合いを強調した斬新な1枚で。ロイ・ウッドならではのクレイジーなひねりが効いた黄金のポップ感覚にジャジーなホーン・アンサンブルやギターが刺激的に絡む、実に壮大かつ、やばい意欲作だった。
なんでも演奏できちゃうポップスの魔法使いのようなマルチ・インストゥルメンタリストであるロイ・ウッドは、この時期、ビーチ・ボーイズのアルバム『15ビッグ・ワンズ』のレコーディング・セッションにホーン・プレイヤーとして参加したりもしていたけれど。なんとなくそっちモードに突入していたのかも。
にもかかわらず、このセッションで録音されたごきげんにポップな「インディアナ・レインボウ」って曲が、ロイ・ウッズ・ウィザード名義のシングルとして1976年春に先行リリースされたところ、これがチャートインせずじまい。当時所属していたジェット・レコードは、もともとロイ・ウッド/ウィザードの新たな方向性に疑問を抱いていたこともあり、アルバムのリリースを拒絶。ポップ・ヒストリーに名を残す幻のアルバムがまた1枚誕生してしまったのでありました。
やがて四半世紀が過ぎたころ、1999年になってそのマスターテープが発見されて、リマスターがほどこされて、翌2000年に英エドセル・レコードからついにリリースされた。このアルバムについてロイ・ウッド自身は、もしこのアルバムが成功していたらウィザードはこういう音楽性を追求し続けて、やがてジャミロクワイがやっているようなアシッド・ジャズ的な音楽をいち早く究めていたのかもしれない…的な発言もしていた。
まさに事件とも言うべき発掘リリース劇だったわけだけれど。このときもほんの数年後、廃盤に。改めて幻のアルバムとなって、20年近く。つくづく悲運なアルバムだなぁ。
でも今回、本ブログではもう常連のような再発系レーベル、チェリー・レッド・レコード傘下のエソテリック・レコーディングズが、改めて最新リマスターをほどこし、さらに本作と同セッションで録音された「ヒューマン・キャノンボール」をボーナス追加した仕様で再発掘してくれた。「ヒューマン…」も2006年のベスト盤で初めて日の目を見た貴重なアウトテイクだ。グッジョブです。
エソテリック・レコーディングズは去年、ロイ・ウッド名義の大傑作ソロ・アルバム『マスタード』も出しているし、今回の『メイン・ストリート』と同時に『イントロデューシング・エディ・アンド・ザ・ファルコンズ』も再発してくれたし。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
ちなみに本日、国内盤も出ました!